劇団きららの社会派コメディで笑って共感!熊本発のオリジナル演劇を楽しむデートプラン

この記事では、熊本県熊本市に拠点を構える「劇団きらら」の魅力について紹介します。劇団きららは、熊本を拠点として福岡や東京でも公演を行っているので、九州や関東に住んでいるカップルにおすすめです。

きららは1985年に創立された劇団で、数多くのオリジナル作品を発表し続けています。独自の視点から生み出された、愉快な「社会派コメディ」が多く作られていますよ。

笑いながら「こんな人いるいる」「この感じ分かる!」と思わされるような、共感できる演劇が好きな人におすすめの劇団です。今回はそんな、劇団きららの魅力や想いについて紹介します。

こんなカップルにおすすめ!
向いてる年代:20歳〜59歳
おすすめカップル:演劇好きのカップル
演劇スタイル:ストレートプレイ
観劇料:2,300~3,000円
場所:熊本・福岡・東京

共感必至!劇団きららが届ける社会派コメディの魅力

劇団きららの舞台の様子
▲「ほね屋」上海公演舞台写真(撮影:marroo)

劇団きららは、現代社会に実際にいる人たちに着想を得た、「なりたい自分になりそこなった人々」を描くコメディ作品を数多く上演しています。

「同じようなことを思ったことがある」「あの人の気持ちわかるなあ」と共感を得られ、観劇した人の日々の暮らしを支えてくれるような、等身大の作品が多い劇団です。

劇団は家庭のリビングのような雰囲気があり、劇団員がよくおしゃべりしています。普段から感情のやりとりをしている劇団だからこそ、気持ちの通った作品が作り上げられており、多くの熱心なファンを生み出しています。

今回は、劇団きららの代表である池田さんに、きららの魅力について教えていただきました。

35年以上の歴史!オリジナル作品で魅せ続ける劇団きらら

劇団きららのメンバーたち
▲「ほね屋」上海公演(撮影:marroo)

編集部

劇団きららは、長く続いてきた劇団だと聞いています。まずは、そんな劇団きららの歴史について教えてください。

池田さん

劇団きららは1985年、熊本学園大学演劇部OBと新聞公募のメンバーで旗揚げしました。ちょうど、熊本で一番人気の劇団がメンバー全員で上京された後でした。ぽっかり空いたところに赤子が生まれた、的な感じで、いろんな方面の方々からとてもかわいがっていただきました。

ちなみに、上京された先輩方は現在も劇団「ワンツーワークス」として活躍されています。

旗揚げ公演「石炭伝説」ポスター
▲旗揚げ公演「石炭伝説」のポスター

以降、一貫して代表である池田美樹のオリジナル作品を上演してきました。劇団の柱である公演制作に加え、仕事としてのイベント・演劇ワークショップの三本柱で活動しています。また、九州では珍しい、専属の制作(マネージャー)がいる劇団でもあります。

編集部

今回取材させていただくにあたり、劇団きららの公演を観劇した方の感想を拝見したんですが、共感できるストーリーや、自分が日々感じていたことが表現されていたりして心に響くという声が多かったです。

これまで一貫して池田さんのオリジナル作品を上演されてきたということで、旗揚げ公演の「石灰伝説」がどのような作品だったのか、とても興味がわきました。

「なりたい自分」へのもがきを愉快に描く劇団きららの演劇

劇団きららの舞台の様子
▲「ガムガムファイター」(撮影:藤本彦)

編集部

オリジナル作品がほとんどとのことですが、どのようなジャンルの演劇をしているのですか?

池田さん

公演のジャンルは「社会派コメディ」です。「なりたい自分になりそこなった人々」を切実に、でも極力愉快に描き続けていきたいと思っています。

例えば、「ラブホテルの清掃バイトを始めた元・エリートサラリーマン」や「真冬、うどんの自販機に集う人々」など、訳アリな面々の背景が絡んで行く様子に共感していただくことが多いですね。

編集部

話をお聞きするだけでも、気になってしまう作品の人物設定ですね。なぜ、うどんの自販機に人が集まっているのかなどと、想像が膨らんできます。そんな中にも、どこか自分との共通点が見つかって、お客さんは共感を覚えるのかもしれませんね。

作品の内容から想像しても、お客さんとの距離が近そうな気がしますが、上演するのはどのようなところなのか教えてください。

池田さん

演劇というと数百席の劇場を思い浮かべる方も多いかと思いますが、きららの公演は「小劇場」と呼ばれる、50席程度の空間です。大劇場で観る演劇は、音楽で言えばコンサート。ステージと客席が近い小劇場はライブに近い気がします。小さい会場で何回でもやりたいと考えています。

新作公演は毎回、熊本・福岡・東京で20ステージほど開催します。演者と客席の呼吸が毎回違うライブ感がきららの作品に合っている、と感じています。ここ5、6年はずっと同じ会場で公演しています。

王子小劇場と池田美樹さん
▲王子小劇場と代表の池田美樹さん

また、イベントは呼ばれればどこででもしています。宴会のにぎやかし役から薬物乱用禁止の劇、企業PRから真面目な朗読劇など、様々なことを路上・宴会・スーパーの催事場などでやって来ました。数百人が騒ぐ年末カウントダウンライブのステージでコントをやったときの混沌は忘れられません。

また、路上や催事場でのイベントでは、いかに足を止めていただくかがすべてだと思っています。そこで培った気合は、公演にもずいぶん生かされていると思います。

編集部

新作公演を、熊本・福岡・東京で巡回して上演してくれるというのは、お客さんにとってとても嬉しいことですね。路上などにおけるイベントのご経験は、たしかに劇団の底力につながっていそうです。

作品のアイデアは、どのようなところから生まれるのですか?

池田さん

ひたすら雑談です。演劇の友人知人に限らず、近所のおばちゃん、演技レッスンで教えている小学生、実家のあれこれで知り合った行政書士さんや不動産屋さん等、「話せる機会」があれば、いろんな質問を重ねます。

その中で感じた「ままならなさ」や「その人ならではのライフハック」と社会情勢を絡めてテーマを決めることが多いです。

また、モチーフとして運転代行、私服警備員(万引きGメン)など「ニッチな職業」を扱うことが多いので、そのへんのアンテナも張り巡らせるようにしています。「ガムガムファイター」という作品はラブホテルの清掃バイトの人々が主軸なのですが、これも実際にそのバイトをしていた後輩の男の子との雑談から生まれました。

「ガムガムファイター」のチラシ
▲「ガムガムファイター」のチラシ

きらら初期の頃に、「池田さんが数人いたら、(登場人物は)全部自分でやりたいんじゃないですか?」と言われてショックを受けたことがありました。「台本に出てくるキャラクターが皆、書いた本人に似ている」という指摘だったのだと思います。自分の頭の中だけでものを作るには限界がある、と痛感しました。

キャストの人たちともかなり話し込みます。本人の近況や生い立ち、こだわりなども聞きまくり、確認を取って後、台本に織り込むこともあります。今後もいろんな人の経験や発想を聞き続け、なるたけ多方向の視点がある物語を作りたい、と考えています。

編集部

雑談から作品が生み出されているとは、とても興味深いお話だと思いました。ご自身の経験だけではなく、様々な人たちからお聞きした話が元になって作品が生み出されているのですね。

運転代行など、知っていそうで実態をよく知らない職業の人が登場するというのも、気になります。

戯曲デジタルアーカイブにて、池田さんの戯曲の一部が無料で公開されています。
先程お話にでた「ガムガムファイター」も無料閲覧できますので、ぜひご覧ください。
戯曲デジタルアーカイブ(池田美樹さんの戯曲)

観客に「驚き」を!劇団きららの挑戦と進化

劇団きららの舞台写真
▲「プープーソング」(撮影:藤本彦)

編集部

劇団きららでは、池田さんのオリジナル作品を上演してきたとのことですが、略歴や代表作などについて教えてください。

池田さん

作・演出とも、代表である私が手掛けています。1963年に熊本市の繁華街で生まれ、以降ずーっと熊本です。ひとりっ子でA型の左利き、幼少時より漫画を描き、リカちゃん人形で再現する遊びにハマっていました。22歳で劇団きららを旗揚げし、36年経った今のものづくりの信条は「とんちと愛嬌」です。

創設当時は地元にとって数少ない劇団だったので、いろんな方に重宝され、書いて上演して、を楽しく重ねていました。転機となったのは1995年に「イムズ芝居95」最優秀賞をいただいたときでした。

受賞のご褒美は福岡の人気商業施設・イムズでの公演でした。定期的にスタッフの方が稽古チェックに来られ、厳しい言葉をたくさんいただきました。演劇のプロの方に叱咤されたことがなかったので、目からウロコが落ち続け、下唇を噛み締め続ける毎日でしたが、大きな手応えも感じました。

集客や収支など「数字」のことも意識するようになったのはこの企画のおかげです。そこから新作ごとに福岡公演も実施するようになり、いろんな演劇観の人と出会うことで、劇団の意識もグッと変わりました。以降、フェスティバルや戯曲賞には極力チャレンジするようにしています。

2002年からは東京公演も実施しています。2003年、東京・アリスフェスティバル・アリス賞では中国・上海公演の機会をいただきました。また、2015年、東京・王子小劇場・佐藤佐吉賞最優秀脚本賞では、たくさんの若手演劇人の方々とつながる機会を得ることができました。

編集部

九州だけではなく、東京でも定期的に公演をされて、きららのファンは全国に広がっているとお聞きしました。

受賞歴も素晴らしいですが、他者との関わりによって、色々な気づきを得て、さらに次の作品作りに生かされているのですね。

池田さん

「淀む水には芥溜まる」という言葉の通り、長くやっていると厳しい意見・新鮮な視点をもらうことが激減するので、今後も極力いろんな賞レースに挑戦していきたいと思っています。

「小劇場には驚きを観に行くんだ」。東京で、年間600ステージも観劇する男性がそう話されていました。

演者と客席が近いからこそ生まれるライブ感を大切にして、きららなりの「驚き」を提供できるよう、いろんなチャレンジを続けていきたいと思っています。

編集部

チャレンジし続ける姿勢からは、観たことのない演劇、思ってもみなかった視点など、新しいものが生み出されそうな期待が高まります。これからのご活躍もますます楽しみです。

日本人の孤独観に切り込む「星の王子さま」

編集部

たくさんの作品がありますが、その中でも、特に人気が高いものを教えてください。

池田さん

2008年初演の「星の王子さま」(サン=テグジュペリ作)は評判が高く、再演・ツアー・学校公演などを重ねました。きららの中で唯一、原作ありの作品でもあります。

「星の王子さま」の舞台の様子
▲「星の王子さま」の舞台(撮影:藤本彦)

こども向け物語のイメージがありますが、いざ手掛けるとなると抽象的で解釈が困難でした。これはもう根本的な問題かも、と考え、在熊のフランス人の方々に集ってもらって、日仏の違いを質問するお茶会を開きました。

これがとてもおもしろかったんです。「熊本に来て驚いたことは(小中学校の)合唱コンクール!学校は勉強を教わるところ。なのに授業時間外まで皆で練習して競い合うのはなぜ?」そんな話から始まって、恋愛観、結婚の制度など、日本の感覚とは違う視点にびっくりすることだらけでした。

フランス人は、全体より個人優先の考え方を持っている傾向にあります。「日本の人は孤独を怖がりすぎてるんじゃないか」という話が出て、それが作品のテーマを考えるきっかけになりました。そこから、稽古場でひたすら皆で話す日々が続きました。

1日中スマホと向き合って何かとつながっていたい自分たちと、砂漠に不時着して孤独な時間を過ごす登場人物との違いを模索し、演出を紡いでいきました。

難解な物語ではありますが、学校公演でもそのテーマをしっかり受け止めてもらえた実感がありました。劇団にとっても貴重な演目のひとつとなりましたね。

その後、フランスでのイベント会場で流してもらえる、ということでフランス語の字幕入りの動画も作成しました。いつか現地で上演できたら、というのはささやかな夢のひとつです。

▼劇団きららの「星の王子さま」ダイジェスト

編集部

「星の王子さま」は、もともと日本では人気の高い物語です。お話は知っていてもその解釈は読者によって様々に分かれる、多様な読み方のできる作品ですよね。

そのような物語について、日本人とフランス人の考え方の違いを掘り下げて作品のテーマを考えていき、演劇が作られていくなんて、とても興味深いです。フランス上演を実現させて、現地の人たちの反応も見てみたいと思いました。

「見立て」と「出ずっぱり」で魅せる劇団きららの演出

上海公演の街頭看板
▲「ほね屋」上海公演(撮影:marroo)

編集部

演出にも工夫を凝らされているのではないかと思いますが、劇団きららならではの魅せ方というものはありますか?

池田さん

きららの作品は、常に「見立て」という演出にこだわっています。「見立て」というのは、その場にあるモノを想像力でいろんなものに例えることです。たとえば落語では扇子をキセルや箸、刀に例えて演じますが、あの表現方法です。

大掛かりな舞台セットを組まず、シンプルなステージに小さな木の箱を数個並べるだけのステージです。その箱を並べ替えて、部屋や道路、繁華街など色んな場面に例えていきます。

客席の皆さんも想像することを楽しんでくださるようで、毎回嬉しい感想をいただきます。同じ理由で小道具もすべてエア(ジェスチャー)に置き換えています。

舞台の上に並べられた箱
▲箱が並べられた基本ステージの様子

また出演者は常に出ずっぱりというのも、きららの特徴ですね。出番でないときは、後ろに座って、声や身体を使って様々な場面を作っていきます。

この演出の始まりは「苦し紛れ」だったんです。あるとき、閉店したコンビニ跡地で公演をすることになり、演者がひっこむ空間もないことから、「いっそもうずっと見えるところに座っていよう」というメンバーの冗談から生まれました。

今では「きららといえば出ずっぱり」ということが定番になりました。客演の方々も皆、この演出を楽しんでくれます。うしろに座っている、出番のない演者を観るのが、きらら観劇の楽しみのひとつだと言うお客様もいらっしゃいます。

装置も小道具もない分、衣装にはこだわっています。小さい空間を、その作品のイメージの色で埋め尽くしたい、というこだわりがあり、毎回力を入れるポイントです。中国・上海演劇祭でbest costume賞、東京・王子小劇場で優秀衣装賞をいただいたこともあり、大きな励みとなっています。

編集部

舞台セットがシンプルだと、かえって観劇している人それぞれの頭の中に場面設定が作られて、舞台に深みが出るのかもしれないと思いました。

また、出演者全員がずっと舞台に出ているというのは、ユニークな演出ですね。ひいきの俳優さんがいる場合は、出番でない時もその人のことを見ていられるので嬉しいかもしれません。

「中年文学」として魅せる劇団きららの作品世界

劇団きららの稽古風景
▲「70点ダイアリーズ」稽古風景

編集部

これまで長い歴史のある劇団ですが、どのような思いで劇団を続け、公演をされていますか?

池田さん

きららの作品を「中年文学」と評してくださった方がいます。その方によれば、「主人公がいろいろ経験して成長していくのが青春文学。しかしきららの登場人物たちの状況はきょうも明日も変わらない。だけど見終わって、視点が変わっていることに気づく。そこが中年文学」ということでした。

そう話してもらって「なるほど、自分はそんな作品を届けたいのだなぁ」と改めて感じました。

齢を重ねた人に限らず「明日は変わる!」と断言できない状況の人は増加傾向にあると思います。でも「こんな視点もあるかぁ」と、何らかのきっかけにしていただけたら本望です。

「変わらぬ明日の視点が変わる」。これが演劇の1つのテーマですね。

編集部

確かに、誰もが明日は変わりたいと思っていても、なかなか本気で変われるとは思えないものですよね。でも、確かに視点が変わるだけでも、変化の第一歩なのかもしれません。そう思えたら、元気が湧いてきます。

「中年文学」とは面白い表現ですが、観客はどのような方が多いのでしょうか?

池田さん

20代後半~40代の男女の方々がメインです。公演回数が多いので、初日、おひとりでいらして、その後、お知り合いを連れて再度来られる、ということがあります。とても励みになります。

「中年文学」ではありますが、20代でハマってくださる方も結構いらっしゃいます。出演者の年齢層が20代~50代と幅広く、各世代のドラマが交錯するので、いずれかの登場人物に感情移入してくださっているようです。単館系の映画が好きな方には響くのではないか、と思っています。

編集部

若者にも閉塞感がある昨今の社会情勢の中では、まずは視点を変えることこそが求められているのかもしれませんね。そこから前へ進んでいく力が生み出されるのかもしれないと思いました。

オリジナルメンバーの「おなじみ感」と客演俳優の強い個性の化学反応

公演「はたらいたさるの話」のチラシ
▲「はたらいたさるの話」のチラシ

編集部

先程、専属のマネージャーがいらっしゃると伺いました。制作を支えてくれる専属のマネージャーさんがいるのは、とても心強いことですね。どのような方なのでしょうか?

池田さん

長崎出身の古殿万利子です。複数の公共ホールに勤務した後、縁あって熊本のきららに来てくれました。

本公演の準備からイベント・ワークショップの事務全般、さらにケータリングの買い物からメンバーの身の上相談まで多岐に亘って奔走してくれています。また、他県から熊本に来られる劇団さんのサポートをしたり、劇場コンサート等の受付業務に就いたりもしています。

地方の芸術活動は、ステージに立ちたい人は多い割に、それを支える人が手薄になりがちです。「制作」という仕事があるから公演が成り立つ、ということを、彼女と共に伝えていきたいと思っています。

編集部

観劇しているだけでは気づかない人も多いと思いますが、制作という仕事はそれだけ多岐に渡る、重要な役割なのですね。裏方に支えられてこそ、演劇作品が成り立っていることがよくわかりました。

編集部

実は、劇団きららの劇団員には個性的な方が多いとお聞きしています。劇団員にはどのような方がいらっしゃいますか?

池田さん

 

現在のメンバーは5名で、演じ手が3名、音響1名、制作1名という構成です。旗揚げ当時は28名くらいいたので、だいぶ雰囲気が変わりました。

現在、団員募集は積極的には行っていません。今はこの「メンバー+客演」というかたちが気に入っています。いろんな世代・経験を積んだ人たちと絡んでみたいので、しばらくはこのかたちで、と考えています。

特に本公演の客演は、九州各地、時には東京から来ていただき、1か月、熊本に滞在してもらって創作しています。

きららはかなり長時間稽古をするのですが、客演にはそれをおもしろがってくれるツワモノ俳優さんをお招きします。オリジナルメンバーの「おなじみ感」と、強い個性でそれを壊してくれる客演さんの化学反応がたまりません。

編集部

客演の方が加わるとなると、作品によって、相当雰囲気が変わるのではないかと思いました。劇団の俳優さんは、どのような方なのでしょうか?

編集部

きららには看板女優が2人います。

1人目は宗真樹子です。九州の様々な舞台にひっぱりだこの俳優です。あどけない少年から世間ずれした女まで変幻自在に演じます。「機嫌のいいのも仕事のうち」という彼女の名言があるのですが、その通り、どんなピンチも笑いに替える「とんちの天才」です。

もう1人はオニムラルミです。東京の演劇雑誌の編集長さんに「唯一無二」と言われた個性の持ち主です。生きることに不器用な、ねじくれキャラを演じたら逸品です。彼女の名言は「全部芝居で返してやる!」です。プライベートで何かあっても、それを作品に活かすぞ、という実に頼もしいメンバーです。

共に20代からアラフィフの今まで作品の土台を支えて来た2人です。齢を重ねると実生活でもいろんなことがありますが、「今の年齢だから作れるもの」を共に模索できるのはとてもぜいたくなことだと思います。

編集部

30年以上も演劇を続けていると、作り手のその時々の年齢に応じて、芝居や演劇が進化していくのですね。これからもますます目が離せません。

コミュニケーション重視の劇団きららの稽古スタイル

劇団きららの和気藹々とした稽古風景
▲「70点ダイアリーズ」稽古風景

編集部

劇団員の方は仲が良いそうですが、劇団の雰囲気について教えてください。

池田さん

とにかくよくしゃべります。時事ネタから、その日みつけたどうでもいい話までしゃべりまくっています。言語中枢を存分刺激してから稽古に入ると、感情のやりとりも豊かになる気がします。その雑談の中から創作のヒントを拾うこともしばしばあります。

稽古は劇団の事務所兼稽古場で行います。繁華街からバスで15分余り、熊本大学のすぐそばで、若人の活気あふれる地域です。この場所に来てもう21年目になります。家賃はずーっと5万円。応援し続けてくださる大家さんにまじ感謝です。

しかしコロナ禍に入り、この2年間で使ったのは数日間だけです。時折郵便物を取りに行くのですが、切なさ満載です。早くまた連日通える日々が戻ってくることを祈っています。

編集部

たくさん話してコミュニケーションをとってこそ、新しいものが生まれやすくなるのでしょうか。本当に、早く稽古を再開できるといいですね。実際の稽古の雰囲気はどのような感じですか?

池田さん

稽古の大きな特徴は2つあります。ひとつめは雑談です。ゲストである客演さんも交えて、とにかくよくしゃべります。日常のあれこれもですが、役柄の背景や台本の内容についてもひたすら話します。一見スムーズに進んでいるような稽古でも、話してみると考えがズレていたり、思わぬ勘違いがあったりもするので、公演ギリギリまで重ね続けます。

もうひとつは粘着稽古です。演じ手はセリフを覚えてしまうと、ついひとりで芝居をしてしまいがちになります。「気持ちのやりとり」をしないまま、自分勝手な演技で感情を動かしてしまうことを「自家発電」と呼び、極力それが起きないようにしています。

「○○のこの言葉で△△はこういう気持ちになる」という細かい解釈を皆で共有していくと、自家発電を避けることができます。そしてその「感情のやりとり」ができたかどうか、何度も稽古を繰り返します

3分ほどの場面を1時間半ほど繰り返すこともあり、客演の方々に「きらら名物・粘着稽古」と呼ばれています。

編集部

仲が良いからよくしゃべるということだけではなく、雑談が作品作りに重要な要素だということがわかりました。その密なコミュニケーションが、舞台上での感情のやりとりにつながるのですね。「自家発電」とは面白い表現ですね。

言語の壁を越えた感動!上海公演「ほね屋」の手応え

上海公演の舞台の様子
▲「ほね屋」上海公演舞台写真(撮影:marroo)

編集部

「面白かった」「感動した」といった、劇団きらららしいと思えるようなエピソードがあれば教えてください。

池田さん

2004年、中国・上海の「小劇場国際演劇祭」に招聘される機会に恵まれました。5日間の滞在で、とても刺激的な日々でした。上演したのは「ほね屋」という、肉を食べたことのないおとなしい村の人々が、闘いの興奮や肉の味を覚えて変貌していく、という民話のような物語です。

字幕をつけるかどうか迷ったのですが、「そちらに目が行って肝心の舞台に集中してもらえないことがある」と聞き、日本語、それも元台本の熊本弁のまま上演することにしました。公演冒頭、中国スタッフの軽い説明が終わったら、あとはもうお客さんにとっては異国語となります。

どうなることかとドキドキでしたが、熊本・福岡での公演以上にリアクションがあり、とてもとても驚きました

満員の客席の中、演者が肉を齧るところは唾を飲み込む方がいらしたり、主人公の怒りがふつふつとたまるところでは眉間にシワを寄せて凄まじい形相で見入る方がいらしたりしました。演者が拙い中国語でコミカルな表現をする場面では、爆笑と共に大きな拍手が出て、涙が出そうになりました。

上海公演の客席
▲上海の観客にも大好評

メンバーの気合もいつも以上でした。開演前、聞き慣れぬ言語が飛び交う客席を前に、皆めっちゃ緊張していました。

しかしオープニング、客席から「ほぅ…」という呼吸が聞こえ、以降、笑いや歓声が上がったので、「わかってもらってる!」という感動で一気に表現欲に火がつきました。声で、表情で、全身でしっかり届けたいと、強く思いました。

以降、「日本語」で演技するときも、あのときの感覚が身体の中に残っています。アフタートークでは民族問題に重ねて深い質問も飛び出し、「物語が伝わったのだなぁ」という気持ちと同時に、「演劇と世相を深くつなげて観劇されるのだなぁ」と背筋が伸びました。

翌朝、敷地内でフランスの劇団の方々が私たちをみつけ、うちの作品の真似をしながら近づいてきてくれたのも、忘れられない光景です。

忘れられないといえばもうひとつ。上演中に客席のあちこちから携帯の着信音が鳴り響きました。もちろん前説で「電源オフ」のお願いはしてあります。そして…携帯が鳴った方々は、そのまましゃべりながら満員の客席をかき分けて外に出て行かれ…また堂々と戻って来て元の席に座り、観劇されていました。びっくりもしましたが、その堂々たる姿勢に、かえって痛快な気持ちになりましたね。

編集部

熊本弁のまま上演したにも関わらず中国のお客さんに伝わったなんて、驚きました。演劇は言語の壁を超えて、お客さんの心に届けることができる表現なのですね。

公演のたびに素晴らしい経験をされ、またそのことが次の作品に生かされていくのでしょうね。

夏の人気イベント「こどもおもしろおばけ屋敷」の魅力

「こどもおもしろおばけ屋敷」の様子

編集部

これからどのような活動をしていきたいですか?

池田さん

きららのやりたいことのひとつに「つなぐ」ことがあります。いろんなところでいろんな人と知り合うたびに、「この人とこの人、この団体とこの企画がつながったらどんなにおもしろいだろう!」と思い続けています。

そして熊本では、実際にそれを叶える機会に恵まれることが多いです。「演劇ワークショップ」という言葉が一般的になる以前の90年代から、学校に呼んでいただく機会がありました。さらに、商店街や公的機関での演劇を用いた企画も多々あります。熊本は、もともと「劇を使って盛り上げよう」というおまつり気質が昔から根強い気がします。

  • 熊本地震の4か月後「繁華街を盛り上げてほしい」とのご依頼で行った「上通演劇まつり」
  • 400年前の哀しい干拓の歴史を演劇で残そう、と企画された「よこしま物語」
  • 劇場の裏側を劇仕立てで見学・体験していく「行くぜ!劇場探検隊」

どれもきららだけでやれるものではないので、毎回いろんな人や団体にお声掛けをしています。そこでつながった人たちがまた別の企画を立ち上げる的な動きは、何とも言えない喜びがあります。

「上通演劇まつり」のパレードの様子
▲「上通演劇まつり」におけるパレード

編集部

劇団きららが、様々な団体のハブのような役割を果たして、有機的なつながりを生み出している様子が伝わってきます。公演だけではなく、様々なイベントに関わっているのも、きららの大きな特徴ですね。

その中でも、恒例となっているイベントはありますか?

池田さん

中でも手応えを感じているのが、熊本市主催の夏のイベント内で開催する「こどもおもしろおばけ屋敷」。7年前から続く人気コンテンツです。

夏休みの10日間、熊本市現代美術館で開催するのですが、毎回2,000人を超える方々にご来場いただいています。

「こどもおもしろおばけ屋敷」の様子
▲大人気の「こどもおもしろおばけ屋敷」

おばけ役には熊本の演劇人がぞろりと集まっています。おばけ屋敷と言っても、刃物や血しぶき、恨みねたみ系のものではなく、「こどもたちの日常の中にあるものが化けている」というコンセプトです。

本棚からあふれだしてきた文字たちや、裏庭に棲む昆虫たち、冷蔵庫のピーマンや大根などを、愉快に演出しています。

こどもたちの怖がり具合によって「怖さ調節」できるようになっているのも特徴で、おばけとじゃんけんできたりするやさしいコースから、容赦なく怖がらせる最恐コースまで揃えています。

おばけ役は熊本の演劇人たちで、日々、絶叫と爆笑をかもすためにあれこれ工夫し続けています。休憩時間も皆で提案しあい改善し続けていく様子は、もはや「10日間の劇団」状態です。

2020年は密を避けるため中止となりましたが、2021年は動画作品を作り、配信しました。「おばけがいる、と感じてしまうあたまのなかのひみつ」を演劇とダンスで解明する、楽しくて役に立つ動画です。

2022年夏は、またこどもたちの絶叫が響く空間を作れることを心から祈っています。

▼「あたまのなかのひみつ」全4話

編集部

なんとも楽しいイベントで、熊本のこどもたちがうらやましいです。大人でもお化け屋敷に行ってみたいと思いました。でも、大人の入場料金は100万円なのですね(笑)。YouTubeからもその楽しさの一端が伝わってきました。

観客の心を掴む!劇団きららの公演の口コミと感想

公演「気持ちいい穴の話」のチラシ
▲「気持ちいい穴の話」のチラシ

編集部

きららの劇を観たお客さんからは、どのような感想をもらうことが多いでしょうか?

池田さん

「思っていたけど言葉に出来なかったことが物語になっていた」と言っていただくことが多々あります。先ほど言ったとおり、「なりたい自分になりそこなった人々」の物語なので、自分の状況と重ねて観てくださる方が多いように感じます。

上演後、出演者全員でお客様をお見送りするのですが、登場人物に語りかけるように「あの気持ちわかるよ~」と声を掛けてくださったり、「私、同じ経験があって…」と、ご自分の体験を語ってくださったりすることがあります。

「おもしろかった」と言われるのもとても嬉しいのですが、こういうときは、皆さんの内側の「何か」に響いたのだな、と、作者冥利に尽きます。

また、東京では「公演の初日を観た人のSNS投稿を読んで、観に行くかどうか決める」という習慣があります。常連のお客様達が初日に来てくださり、その日のうちに観劇を推奨するつぶやきをしてくださるので、2日目以降の予約がグッと伸びることが多いです。とてもありがたいです。

編集部

なりたい自分になれなくても、同じようにもがいている人がいると思えたら、なんだか頑張れそうな気がしてきますね。生の演劇ならではの力だと思います。

「泣いてしまった」「素敵な舞台だった」という声が多数

劇団きららの劇を観覧されたお客さんの感想を拝見した中では、以下のようなものもありました。

アイコン
泣いた。きららはどんどん素敵になっている
アイコン
テンポが良く軽やかで、おしゃれな舞台で、細かい面白さが満載
アイコン
心に沁みた。心身ともに疲れていた時に観たので号泣してしまった

コメディに笑いながらも、泣いてしまったという方が多いようです。また、舞台演出や照明が素敵だという声も多数寄せられており、作品の完成度の高さが評価されていました。

劇団きららからカップルへのメッセージ

劇団きららの俳優たち
▲(上から)池田美樹さん・オニムラルミさん・宗真樹子さん

編集部

自粛期間中は大変な時期だったかと思います。そのときに感じたことや、その期間があったからこそお客さんに対して伝えたい思いなどがあれば教えてください。

池田さん

2020年の新作「70点ダイアリーズ」が、もろにコロナ禍にハマってしまいました。1月熊本、2月福岡…まで上演したところで4月の東京が中止となりました。延期の看板を掲げたまま、まだ動いてない状況です。Twitterのトップはこの作品のまま固定。何とかして東京の方々にも観ていただきたいと、様子を見続けているところです。(※取材当時の情報です。最新の情報は公式ページでご確認ください)

一方、この状況のおかげで、普段は知り合えない地域の方々と知り合うことができました。リモートイベント花盛りとなり、演劇の勉強会や朗読の公演などに全国各地から参加可能、となったことは大きな収穫でした。

この2年で、北海道や東北にも知り合いができました。皆さんと「生身」で会うのが今から楽しみです。

編集部

公演が中止となってしまったことは残念ですが、知り合いが増えたことによって、今後の活動の幅が広がるかもしれませんね。

では最後に、これから劇団きららの公演を観に行こうと検討しているカップルへ、メッセージをお願いします。

池田さん

観劇後、「今、ひたすら誰かとしゃべりたいです」というアンケートをしばしばいただきます。ラブラブ、なデートというより、語りたい!共有したい!という「語りたいカップル」の方々にお勧めです。観劇を通して、普通のデートでは踏み込めない、お互いの深い気持ちを交わせる機会になれば、と思います。

「ちょっとねじくれた登場人物」も多いので、「あの気持ち、実はよくわかる~」「似た感じの変な癖、実はあるんだ」的な「告白トーク」もおもしろいかもです。

きららはSNS、特にツイッターを頻繁にまわしています。きらら関連の情報はもちろん、いろんな演劇ニュースもまめに更新しているので、時折覗いていただくと、おもしろい情報が拾えるかもしれません。

>>劇団きららの公式Twitterはこちら

編集部

観劇後、劇中の登場人物に共感しつつ、カップルで話が盛り上がると、とても思い出に残るデートになりそうだと思いました。

本日は貴重なお時間をいただき、ありがとうございました。

チケット購入方法

きららの公演のチケットは、劇団きらら・ローソンチケット・CoRichチケットでお求めいただけます。

料金は熊本・福岡公演2,300円、東京公演3,000円です。

劇団きららの基本情報

住所 〒860-0862
熊本県熊本市中央区黒髪5丁目8-11
問い合わせ先 TEL:096-346-3437
E-mail:gkirara@jcom.zaq.ne.jp
チケット料金 熊本・福岡公演:2,300円
東京公演:3,000円
※インタビュー時の価格です
平均公演時間 80~90分
公式サイト http://www.gkirara.com/

※最新の情報はホームページ等でご確認をお願いいたします。
※記事中の金額はすべて税込表示です

劇団きらら公演と合わせて楽しむデートスポット

直近での公演予定がないため、劇団きららの稽古場周辺と、東京公演がよく行われる東京都北区の王子小劇場周辺のおすすめのデートスポットも合わせて紹介します。

おすすめのデートスポット

劇団員も通う名物定食屋「竜神橋食堂」

劇団きららの稽古場の近くにあり、劇団員の皆さんが連日通っているのが、地元の学生やサラリーマンに人気の老舗定食屋「竜神橋食堂」です。

メニューはなんと70種類以上もあり、どれも手作りでリーズナブルな価格設定です。熊本ならではの馬ホルモン味噌煮定食、カツカレー、レバニラ焼き定食など、どれもボリューム満点です。お腹を空かせていきたい名店です。

熊本県観光公式サイトURL:https://kumamoto.guide/spots/detail/18787

隠れ家カフェ「equipment:FLOOR」で過ごす癒しの時間

劇団きららのメンバーが大好きなのが、昭和の一軒家をおしゃれにリノベーションした隠れ家的一軒家カフェ「equipment:FLOOR(イクイップメントフロア)」です。まるで、友達の家に遊びに行ったかのような、落ち着ける空間が広がっています。

カレー、野菜たっぷりの日替わりお膳定食、アジアごはん、ほっこりするチャイ、手作りスイーツなどが揃っており、デートにはぴったりですね。

公式URL:http://www.web-equip.com/

130年以上の歴史を誇る老舗パン屋「明治堂」

よく東京公演が行われるのが、東京都北区にある王子小劇場です。その近くにある「明治堂」は、なんと創業1889年(明治22年)という、老舗のパン屋さんです。創業当時は、東京にもパン屋さんはまだ10店しかなかったそうです。

現在は4代目の店主が伝統を受け継いでいます。平日は朝6:30から営業しており、焼き立てパンが並んでいますよ。何時に行っても驚くほど豊富な種類の、多彩な味が堪能できます。

2階にはカフェがあり、コーヒーと共に香ばしい焼き立てパンが食べられます。公演時には、劇団員の皆さんの心とおなかのオアシスとなっているそうです。

公式URL:https://www.meijido.tokyo/

劇団きらら周辺のおすすめデートスポット

マニアックな作品が上映される映画館「電氣館」
新進気鋭の尖った展示が特徴的な熊本市現代美術館

劇団きららが推薦する熊本の注目劇団

注目の熊本の若手劇団について、池田さんから教えていただきましたのでご紹介します。

観客の想像力を掻き立てる作品を繰り出す「不思議少年」
多彩なチャレンジを重ねる「くまもと演タメ学園生徒会」
細やかな心の動きを歌と物語に乗せる「with a clink」
コントと演劇の狭間の世界を展開する「CONTE &ACT噐」
創設51年目の劇団「石」
愉快な中にも風刺の効いた作品を提供し続ける劇団「市民舞台」
ジャンルを問わずいろんなスタイルに挑戦する「DO GANG」
自劇団のスタジオを持ち様々な公演を展開する「studio in.K」

まとめ:劇団きららの演劇で心を解きほぐし、カップルの絆を深めよう

劇団きららへのインタビューを通して、劇団の魅力や特徴、劇団員のお客様への想いについて紹介しました。きららの演劇には、思い通りに生きられない人々に寄り添い、温かい眼差しを注ぐ作品がたくさんあります。

心身が疲れ気味の人や、最近、笑ったり泣いたりしていないカップルに、ぜひご覧いただきたい劇団です。

きららの演劇によって心をときほぐし、鑑賞後はきっと元気が出てくると思いますよ。ぜひ参考にしてくださいね。