宮崎県椎葉村で暮らす良さとは?移住のための仕事・住居・支援情報
この記事では、九州地方での移住を検討している人に向けて、宮崎県椎葉村(しいばそん)の暮らしに役立つ情報を紹介します。
「日本三大秘境」の一つとして知られる椎葉村は、宮崎県北西部にあるむらです。昔から伝わる民族文化やしきたりを大切にしている地域で、世界農業遺産の認定に貢献した「焼畑」は、現在も受け継がれています。
地域おこし協力隊として椎葉村を訪れ、そのまま定住する方も多いことから、移住者にも住み心地の良いまちであることが伺えます。
今回は椎葉村地域おこし協力隊・移住担当の森崎慎也さんにインタビュー取材させていただいた内容をもとに、椎葉村の特徴や魅力についてお伝えしていきます。
椎葉村の3つの特徴
椎葉村で暮らす大きな特徴として、次の3点が挙げられます。
ここからは、これらの特徴について詳しく紹介します。
特徴1:観客参加型の郷土芸能「椎葉神楽」がある
椎葉村は暮らしの中に民族文化が息づく村です。村内の26地区で保存伝承されてきた「椎葉神楽」もまた、親世代から子どもたちへと受け継がれてきました。
住民にとって一年の締めくくりとなる「椎葉神楽」は、毎年11月下旬から12月下旬に開催されます。
練習は神楽の1〜2ヶ月前からはじまり、常会(※)などの練習以外の場でも、日常のコミュニケーションを通して集落や地区の歴史などが伝承されていくそうです。
(※)集落に住んでいる方が月に1回集う会
また、「椎葉神楽」は舞っている人だけではなく、観客も参加します。観客が焚火を囲みながら、せり歌(即興の歌)を歌い交わすことで、本当の意味での「椎葉神楽」が完成するのです。
このように、椎葉村の民族文化は実際に村で暮らすことで、はじめてその奥深さを知ることができます。
村内でも各地区によって舞や衣装、太鼓のリズムは異なります。昔ながらの伝統に興味のある方は、移住した地区の文化を受け継ぎ、次の世代へと伝承するお手伝いをしてみてはいかがでしょうか。
▲住民みんなで守り、受け継いできた「椎葉神楽」は、椎葉村の奥深い歴史を感じさせます
「椎葉神楽」は、1991年に国の「重要無形民俗文化財(※)」に指定されています。
(※)参考:椎葉村役場(椎葉神楽について)
特徴2:世界農業遺産の認定に貢献した「焼畑」を伝承している
椎葉村では伝統文化が継承されるだけではなく、その文化やしきたりを重んじる精神性も住民たちに受け継がれています。
住民たちは昔からの習わしを大切にし、現在も「焼畑」(※)や狩猟をする前にはかならず、山の神様に「唱えごと」をするそうです。(唱えごとの様子はこちらの動画でご覧いただけます)
(※)山間や草地で雑草などを焼き払い、その焼け跡を農地として利用する伝統的な農業手法
▲焼畑の火入れ後は3~4年の栽培期間、そして休耕期間を挟むことで、森林と農林業の調和を図ります
そんな椎葉村を含む高千穂郷・椎葉山地域は、2015年に「世界農業遺産」に認定。縄文時代より伝わる「焼畑」を日本で唯一伝承していること(※)、また焼畑との結びつきが強い「椎葉神楽」を行っていることが評価されました。
(※)参考:椎葉村観光協会(焼畑について)
認定された直後、地元の方は「焼畑が継承されてきた裏には『神様や人間の生活への敬意がある』ので、それが世界農業遺産に繋がったのではないか」と話していたそうです。
このように昔からの伝統や文化が根付く椎葉村は、日本文化に興味がある方にぴったりの場所です。地域おこし協力隊などの活動を通して、村への理解を深めてみてはいかがでしょうか。
椎葉村の小学校では、授業の一環として「焼畑」体験を行います。
▲伝統文化に触れる機会を設け、椎葉村の「焼畑」を次の世代へと継承していきます
特徴3:美しい景観と地元で採れた「山の幸」が堪能できる
椎葉村は東京都23区をひとまわり小さくした大きさで、村の96%は山林が占めています(※)。
(※)参考:椎葉村公式note、椎葉村役場
そのため、家から一歩出ると緑豊かな風景が広がり、村営住宅の周りはどの方角を向いても山が見えるそうです。
椎葉村での暮らしは、「田舎暮らし」よりも「山暮らし」に近いです。
「椎葉のマチュピチュ」と呼ばれている棚田やビルの15階よりも高くそびえ立つ「八村杉」、国指定天然記念物に指定されている日本有数の巨樹「大久保のヒノキ」など、身近な場所で美しい景観を目にすることができるのも、椎葉村で暮らすメリットと言えるでしょう。
▲椎葉村の棚田は、明け方に雲海の中に浮かんでいるように見えることから、「仙人の棚田」とも呼ばれています
▲十根川神社の境内にある「八村杉」の樹高は54.4m。幹は天に向かって真っすぐ伸びています
▲樹齢800年・高さ32mに及ぶ「大久保のヒノキ」は、「日本一の大檜(ひのき)」と呼ばれています
また、椎葉村は食べ物にも恵まれた地域で、椎茸やたけのこ、ぜんまいなど、地元で採れた山の恵みもふんだんに味わえます。
地元の食材をはじめ、郷土料理の「菜豆腐」や「九州山蕎麦」などは村内にある椎葉村物産センター「平家本陣」で販売されているので、移住した際には地元ならではの味を堪能してみてください。
▲地元で採れた食材を使った山菜料理は、椎葉村ならではの味が詰まっています
椎葉村の暮らしに関する情報
それでは、椎葉村の暮らしに関するデータを見ていきましょう。
気候 | 1月:1.8℃ 8月:23.6℃ ※参考:気象庁ホームページ (椎葉村に観測地点がないため、近隣の鞍岡のデータを掲載) |
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人口 | 2,290人 (2024年1月1日現在) |
病院 | 病院:1、歯科:1 |
学校 | 保育園(休園中も含む):5 小学校:5、中学校:1 |
交通 | 【バス】宮崎交通、椎葉村営バス |
近隣都市 | 【宮崎県】西都市、東臼杵郡美郷町、諸塚村、西臼杵郡五ヶ瀬町、児湯郡西米良村 【熊本県】八代市、上益城郡山都町、球磨郡水上村 |
村の中心部にはスーパーや野菜の直売所があり、村内の商店では日用品も販売しています。森崎さんのお話では、普段の買い物には困らないが、車を運転できる世帯は、週に1度村外まで買い物に行くことが多いとのこと。
村外への買い物は、車で1時間ほどの場所にある熊本県の山都町(やまとちょう)や球磨郡(くまぐん)、人吉市まで行く方もいらっしゃるそうなので、休日にドライブを兼ねて出かけるのも良さそうです。
医療機関は村内に「国民健康保険病院」があるため、健康に不安を感じたときはすぐに受診することができます。一方で、専門性が必要なものがあれば村外の病院を受診する必要があり、救急時は設備の整った病院までドクターヘリで搬送されるそうです。
村内にはバスが走っていますが、本数も少ないため、椎葉村で生活するにあたって車は必須。村内は狭くて傾斜のある山道も多いので、運転が苦手な方は事前に練習するなどして、椎葉村での暮らしに備えておきましょう。
移住するまでは「車の運転をほとんどしなかった」という人も意外と多いです。運転に自信のない方には、軽自動車がおすすめですよ。
また、椎葉村では「サークル活動」が盛んに行われています。バレーボールやテニス、野球などのスポーツ系のものや、Zoomを使った「積読読書会」なども開催されてるので、気になるものがあれば積極的に参加し、地元の方との交流を深めてみてはいかがでしょうか。
▼椎葉村の公式Instagram「移住のいろは」では、村での生活についての情報が発信されています
【子育て】小中学校では地元の文化を学ぶ「椎葉村学」を実施
椎葉村には小学校が5校、中学校が1校あり、中学生の約7割は学校横の寮で生活しているそうです。
中学校の近くに住んでいる人だけが自宅から通い、それ以外の人が寮生活をするイメージで、子どもたちは月~木曜日は寮生活をし、週末は帰宅、そして月曜日の朝に登校します。
▲椎葉村の子どもたちの多くは中学から親元を離れ、友人と共に寮生活を送ります
椎葉村の子どもたちは、高校進学のタイミングでほとんどの人が村外へ出て行くので、中学時代に寮生活を体験することはプラスの経験になるのではないでしょうか。
また、椎葉村の小中学校では、地元の歴史や文化を学ぶ「椎葉村学」が実施されています。方言や神楽、民謡や農林業など、椎葉村ならではの授業を通して、郷土愛を育んでいきます。
ここからは、そんな椎葉村の子育て支援・制度や遊びスポットについて紹介します。
子育て支援や制度は充実、村独自の奨学金もある
椎葉村では、以下のような子育て支援を行っています。
すこやか祝金 | 椎葉村で住民登録した出生児を対象に「すこやか祝金(誕生祝い金)」を1人につき20万円支給 |
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チャイルドシート購入助成 | 6歳未満の児童のためにチャイルドシートを購入した場合、購入額の2分の1を助成(上限15,000円) |
子ども医療費の助成 | 0歳から15歳到達後最初の3月31日までの児童を対象に、医療費(保険適用分)の自己負担額を全額助成 |
子育て支援金 | 椎葉村に住む養育者を対象に、小学校就学時、小学校卒業時、中学校卒業時に子育て支援金10万円を支給 |
椎葉村出身高校生の生活支援費補助金制度 | 高等学校、高等専門学校、高等支援学校、専門学校を養育する保護者を対象に月額20,000円を支給(高等学校の正規の修業年限の3年間) |
子どもの誕生をはじめ、ライフステージが変わるタイミングで支援金の給付や補助制度などが活用できる仕組みになっているので、子育て世帯の家計も助かるのではないでしょうか。
参考:椎葉村役場(子育て支援事業について)
参考:椎葉村役場(椎葉村出身高校生の生活支援費補助金制度)
また椎葉村には、椎葉村に住む高校生、専門学校生、大学生等の保護者を対象とした「椎葉村奨学金貸付制度」もあります。
詳細は以下の通りで、奨学生が卒業後に椎葉村に戻り定住すると、奨学金の返還免除制度が適用されます(上限144万円、所得制限あり)。
▼「椎葉村奨学金貸付制度」の奨学金額(月額)
高校 | 20,000円(または30,000円) |
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専門学校 | 20,000円(または40,000円) |
大学 | 25,000円(または45,000円) |
医学生 | 80,000円 |
獣医学生 | 50,000円 |
「椎葉村奨学金貸付制度」についてもう少し詳しく知りたい方は、以下のサイトをご確認ください。
参考:椎葉村役場(椎葉村奨学金貸付制度)
外遊び・室内遊びができる「Katerie」が椎葉村の親子に人気
椎葉村の親子に人気の遊びスポットの一つに、椎葉村交流拠点施設「Katerie(かてりえ)」があります。
名前の由来は、椎葉の伝統的な助け合いを表す言葉「かてーり」で「Katerieが、これからの世代に懐かしい場所として愛されるように…」という想いを込めて名付けられました。
みつばちが一度気に入った巣箱に帰ってくるように、進学などで椎葉村を出た子どもたちが再び村へ戻りたくなるような、”新しくて懐かしい場所”をコンセプトに設立しました。
館内のキッズスペースには、積み木などの木のおもちゃやボルダリング、絵本があり、図書館にはすべり台やひみつ基地もあります。
▲キッズスペースにある木のおもちゃの楽しみ方は無限大。子どもたちは夢中で遊びます
▲図書館に登る階段には、子どもたちが遊べるすべり台もついています
▲図書館にはくつろぎスペースもあるので、子どもと一緒にのんびり読書ができます
施設の外には芝生公園や木で作られたアスレチック遊具もあるので、外遊びが好きな子どもでも退屈しません。
また、Katerieではイベントなども随時開催していて、「クッキングLab」や「ものづくりLab」では以下の体験活動もできます。
- 料理体験:おかし作り、椎葉料理など
- ものづくり体験:木彫り、プログラミング、3Dプリンターなど
公式サイトのトップページに「イベントカレンダー」があるので、気になる催しがあればぜひ親子で参加してみてください。
公式:椎葉村交流拠点施設「Katerie」
公式:椎葉村図書館「ぶん文Bun」
【仕事】「地域おこし協力隊」の任期終了後に独立する方が多い
椎葉村の正社員求人を大手の求人情報サイトで検索したところ、11件の求人が見つかりました。また、車で30分程度の通勤圏(25km圏内)まで範囲を広げると、317件の求人情報がありました(2024年2月時点)。
※参考:求人情報の一例(椎葉村のみ)
※参考:求人情報の一例(椎葉村から25km圏内)
椎葉村では、農林業や建設業、旅館等の宿泊業、商業などが盛んですが、村内の求人数は少なめです。
そのため、移住者の多くは「地域おこし協力隊」として活動し、村のミッションをこなしながら、3年後に独り立ちできるように準備を進めているそうです。
村から出されるミッションは、人手不足を補うものではなく、協力隊の将来を見据えた内容になっています。そのため、任期終了後は起業したりフリーランスとして活躍する人も多いですよ。
そのほかの選択肢としてはリモートワークがあり、希望すれば椎葉村と協定を結んでいる株式会社キャスターで社員として働き、リモートワークをすることもできるとのこと。
村役場へ相談すると、株式会社キャスターと連携している「合同会社ミミスマス」に繋いでもらえるので、椎葉村でのリモートワークに興味のある方はぜひ活用してみてください。
「合同会社ミミスマス」は、地域おこし協力隊のOBが立ち上げた会社です。
参考:合同会社ミミスマス
「地域おこし協力隊」を検討している方に向けた支援あり
椎葉村では「地域おこし協力隊」を検討している方に向けて、「お試し体験」と「インターン」を実施し、以下の支援を行っています。
お試し体験 | 【補助金額】 旅費の半額(上限5万円) |
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【期間】2泊3日程度 | |
インターン | 【補助金額(報酬)】 11,300円/日 |
【期間】2週間~3ヶ月 |
「地域おこし協力隊に興味はあるけど、ちゃんとできるか不安…」という方にぴったりの制度なので、気になる方は公式サイトで詳細をご確認ください。
▲地域おこし協力隊のみなさんは、村での課題に注力しつつ、独立に向けての準備を整えています
公式:椎葉村役場(地域おこし協力隊について)
【住まい】おすすめは村営住宅、空き家はあるが数は少なめ
椎葉村には一般的なアパートやマンションがないため、移住後は村営住宅で暮らす人がほとんどです。間取りは1LDK~2DKがスタンダードで、全戸に光ファイバーが敷設されています。
参考:椎葉村役場(村営住宅について)
また椎葉村には空き家バンクがありますが、登録物件数は少なく、2024年2月時点で3件のみ(※)。空き家に住む場合は家主との交渉に少し時間もかかるので、「絶対に古民家に住んで、田舎暮らしがしたい」という人でなければ、村営住宅を選んだ方がスムーズに移住できるでしょう。
(※)参考:宮城県移住UIJターン情報サイト(空き家バンク)
空き家を検討している人は、椎葉村役場の地域振興課までご相談ください。担当職員が家主さんとの間に入って話を進めさせていただきます。
空き家に住む場合は、リフォームなどの住宅改修費用に関する補助金「空き家利活用促進支援事業補助金」もあるので、興味のある方は以下のサイトで詳細をチェックしてみてください。
椎葉村に移住した人の口コミや感想
椎葉村の魅力や暮らしについて紹介しましたが、やはり気になるのは移住者の口コミなのではないでしょうか。ここでは、実際に椎葉村に移住した方の声を紹介します。
- 豊かな自然に囲まれながら、自分のペースでのんびり生活できる
- 山や川が身近な場所にあるので、休日は猪狩り渓流釣りなどが満喫できる
- 地元の方が優しく、どこに行っても知り合いがいるので安心感がある
移住者の多くは「地域おこし協力隊」として活動していた人で、自然豊かな環境や人との繋がりに魅力を感じている方が多いです。
過去には任期中に子育てをしている方もいたそうで、移住前に赤ちゃん連れで体験訪問した際、宿の方が「子どもは見とくから、ゆっくりご飯食べてね」と声を掛けてもらったことをきっかけに、移住への不安が無くなったと話されていたとのこと。
森崎さんも「村民の思いやりの心」が椎葉村の魅力の一つとお話されていたので、移住先で人との繋がりを重視したい方にとっては、おすすめの場所と言えるでしょう。
椎葉村での暮らしは最初は不便に感じるかもしれませんが、慣れればなんてことはないです。「簡単に行ける秘境」とイメージしてもらえると嬉しいです。
椎葉村への移住に向けたサポート
椎葉村では、移住者に向けた以下の支援を実施しています。
移住支援金 | 【対象者】東京圏からの移住者 |
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【金額】世帯:100万円、単身:60万円 ※18歳未満1人につき30万円の加算 |
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椎葉村移住支援給付金 | 【対象者】満50歳未満で、椎葉村外からの移住者 |
【金額】世帯:120万円、単身:60万円、婚姻を伴う単身:35万円 ※40歳未満の場合1人につき10万円、18歳未満1人につき30万円加算 |
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引越費用補助金 | 【対象者】椎葉村に5年以上移住しようとする者および世帯 など |
【金額】補助対象経費の全額(上限10万円) |
支援金や補助金があれば、新生活に必要な物品購入や引越し費用に充てることができ、椎葉村での新生活に必要な初期費用を抑えられます。該当するものがあれば、以下のサイトから詳細を確認し、活用してみてください。
公式:椎葉村役場(移住支援金制度について)
参考:宮崎県椎葉村「移住のいろは」
参考:椎葉村引越費用補助金交付要綱
椎葉村への移住に関するお問い合わせ
椎葉村への移住については、椎葉村役場までお問い合わせください。
担当課 | 地域振興課 |
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住所 | 〒883-1601 宮崎県東臼杵郡椎葉村大字下福良1762-1 |
電話番号 | 0982-67-3203 |
FAX | 0982-67-2825 |
公式サイト | ▼椎葉村移住者情報サイト https://iju.vill.shiiba.miyazaki.jp/ ▼椎葉村役場 https://www.vill.shiiba.miyazaki.jp/ ▼椎葉村Instagram「移住のいろは」 https://www.instagram.com/shiiba_life/ |