生徒の個性を磨き力を引き出す清教学園中・高等学校の探究学習、グローバル教育

この記事では、特徴的な教育に取り組む注目の学校として、大阪府河内長野市にある中高一貫校「清教学園中・高等学校」を紹介します。

地元の教会に通う子どもたちの願いから1951年に創立された同校は、神様から授かった「一人ひとりの賜物を生かす」という目標を掲げ、生徒の個性を引き出す教育に力を注いでいます。

中でも、全国の教育関係者の注目を集めているのが「探究学習」です。中学では、豊富な蔵書数を誇る図書館やオリジナルの教材、丁寧な教員の指導を生かして論文制作に臨みます。また、海外研修・留学や国際交流も盛んで、次世代を担うグローバルリーダーの育成を図ります。

今回は、そんな清教学園中・高等学校の生徒が得られる学びや学校生活について、校長の森野章二先生に詳しくお話を伺いました!

教会に通う子どもの願いから設立された清教学園中・高等学校

インタビューに応じる清教学園中・高等学校校長の森野章二先生

▲清教学園中・高等学校の成り立ちについて語る中高校長の森野章二先生

編集部

まずは、清教学園中・高等学校の成り立ちについてお聞かせくださいますか?

森野先生

清教学園中・高等学校は、地元の河内長野教会に通っていた子どもたちの「キリスト教主義の学校が欲しい」という願いをもとに、1951年に設立されました。いわゆる資本金は、子どもたちが地元の古い方言で「すくど」と言われていた焚き木に使う落ち葉を売って集めた770円です。海外の宣教団の豊富な財源を土台にして建てられた一般的なミッションスクールと比べると、ユニークな成り立ちなんですよね。

設立当初の生徒はわずか49人で、いつ潰れるか分からないような状況でしたが、学校の理念に賛同した方々がさらに援助や協力をしてくれ、次第に入学者も増えていきました。今では中高合わせ、1700人の生徒が通っています。

編集部

市民の活動の中から生まれた、地域に根ざした学校なのですね。

一人一人の個性や持ち味を100%引き出す「賜物を生かす」教育

清教学園中・高等学校の建学の理念

▲「神なき教育は知恵ある悪魔をつくり 神ある教育は愛ある知恵に人を導く」という建学の理念

編集部

清教学園中・高等学校には、どのような教育理念があるのでしょうか?

森野先生

建学の理念「神なき教育は知恵ある悪魔をつくり 神ある教育は愛ある知恵に人を導く」のもと、めざす人間像として「神を信じ 誠実に仕える」「真理を学び 賜物を生かす」「隣人と共に 平和を築く」の3つを掲げています。特に大事にしているのは、「賜物を生かす」という考え方です。

賜物とはキリスト教で「神から授かった恵み」を指します。これは、ともすると能力や才能のことと捉えられがちですが、本校では個性や持ち味も含めた、もう少し広義の見方をしています。私は本校における「賜物を生かす」の解釈を現代風にアレンジして、生徒によく「一人一人が100%の自分を生きる、そんな人生を送ってほしい」と呼びかけているんです。

編集部

その理念は、学校生活のどんなところに表れているのでしょうか?

森野先生

本校は進学校ではありますが、受験勉強ばかりの学校ではなく、探究活動、学問研究、部活動、国際交流等といった課外の活動にも本気で取り組める環境を用意しています

部活動は、スポーツ推薦枠などはありませんが、全国優勝の経験があるなぎなた部をはじめ、近畿大会や全国大会に出場する部活が複数あります。また、課外で模擬国連や全国高校生フォーラムといった活動に取り組む生徒もいますし、国際交流も盛んです。これら全ての活動を「賜物を生かす」精神に沿って、後押ししています。

学外から訪れた方々が本校生徒の多彩な活動をご覧になり「清教の生徒は表情が輝いてますよね」「生き生きしてますね」と言ってくださることが、私は一番嬉しく感じます。本校の卒業生も「清教に来て良かった!」と話してくれる人が多く、とてもありがたいですね。

編集部

生徒それぞれが何かしらの活動に全力で打ち込んでいるからこそ、充実した学校生活が送れているのでしょうね。

中学3年間で論文の書き方が身に付けられる「探究学習」

「探究学習」の授業風景

▲ 「探究学習」の授業風景

編集部

清教学園中・高等学校の特徴的なカリキュラムについて教えていただけますか?

森野先生

中学3年間を通して学ぶ「探究学習」が特徴的だと思います。これは、76,000冊の蔵書がある本校の図書館「リブラリア」などを利用しながら取り組む調べ学習で、全国の教育関係者の方々からも注目していただいています。

生徒は1年生で、新入生のために厳選された約2800冊が並ぶ本棚「すくど文庫」を中心に、まずは読書に親しみます。

図書館にある本棚「すくど文庫」

▲新入生におすすめの一冊が並ぶ図書館の本棚「すくど文庫」

森野先生

その後、蔵書を使った簡単な調べ学習などを体験し、2年生で「魅力的な人に取材する」というテーマでインタビューや短い論文作成に取り組みます。

それらの総決算として、3年生では卒業論文を執筆します。論文執筆は、生徒個人が興味関心のあるテーマを選び、教員のアドバイスを受けながら臨みます。

編集部

論文のテーマは、どのようなものがあるのですか?

森野先生

今年度の生徒作品から例を挙げると、たとえばスポーツ系では「アンダースローはなぜ絶えぬのか」、芸術系では「“美術作品はよくわからない”を突破するには」といったテーマが見られます。

清教学園中学校卒業生の論文

▲清教学園中学校の生徒たちが執筆した卒業論文

図書館の本題に並ぶ清教学園中学校卒業生の論文

▲卒業論文は図書館の本題に一般図書に混じって並んでいる

森野先生

中には全国的なコンクールで入賞した作品もあり、「漆文化をどのように継承していくか」という論文を書いた生徒は、「図書館を使った調べる学習コンクール」(公益財団法人図書館振興財団主催)で優秀賞・読売新聞社賞を受賞しました。また、「海洋プラスチックから見る経済の在り方」を取り上げた生徒は「ナレッジイノベーションアワード」(一般社団法人ナレッジキャピタル主催)でグランプリに輝いた経験もあります。

編集部

成果は学外でも認められているのですね。学内で発表をする機会もあるのでしょうか?

森野先生

校内の会場にブースを設け、一人一人が論文内容を発表する「ポスターセッション」という機会を設けています。そこでは、ブースを巡る中学1、2年生に向けて、3年生がプレゼンをして質問にも答えます。普段は物静かな子でも、自分の興味のあるテーマについて取り上げているので、とても熱っぽく話し、上手にプレゼンしていますね。

オリジナル教科書「卒業論文のデザイン」は情報収集方法やアポの取り方まで網羅

編集部

論文執筆について、学校はどのように指導をしているのですか?

森野先生

題材の選び方や情報収集の仕方、取材先へのアポイントメントの取り方といったノウハウをまとめた「卒業論文のデザイン」というオリジナルの教科書を使って指導しています。ちなみに、この教科書の内容を一般向けにまとめた『中高生からの論文入門』(講談社現代新書)や『マイテーマの探し方 ~探究学習ってどうやるの?』(ちくまQブックス)とう著書が刊行されています。

オリジナルの教科書「卒業論文のデザイン」や、図書館を紹介するリーフレット

編集部

「卒業論文のデザイン」はA4判で150ページの文量があるのですね。論文執筆のイロハが丁寧に説明されていて、この一冊で論文の書き方の基本がしっかり学べそうです。

この教科書でノウハウを学んだ生徒は、実際にどのように執筆に取りかかるのですか?

森野先生

夏休みを利用して学外へフィールドワークに出かける生徒も多いです。大学教授やプロスポーツ選手、実業家など、様々な分野の専門家のところへ取材に出かけています。

編集部

アポイントメントはどのように取っているのでしょうか?

森野先生

生徒が自ら「インタビューをさせていただけませんか?」と手紙を送ります。最近の子どもは手紙を書く習慣がありませんから、「拝啓」から始まる手紙のフォーマットや封筒の表書きの書き方までしっかり教えます。

学校からの依頼だと断られるような方でも、生徒個人からの依頼であれば引き受けていただけるようなケースもあるんです。中には、取材をした大学教授から「卒業したらうちの大学においで」といった声をかけていただき励ましをいただいた生徒もいますし、論文で学んだ分野の学科に進学する生徒もいます。

編集部

生徒の将来を左右するような機会になっているのですね。

高校生はグループワークで世界の社会課題と向き合う

「女性と男性の労働格差をなくすには」をテーマに学ぶ高校生

▲「Global Studies」で「女性と男性の労働格差をなくすには」をテーマに学ぶ高校生

編集部

「探究学習」には、高校生も取り組むのでしょうか?

森野先生

はい。高校生は個人ではなくグループワークで「探究」を行います。社会に出てからは個人よりグループで仕事をする場面が多いですから、それも視野に入れています。

授業名は「Global Studies」となり、世界的な社会課題など比較的硬派なテーマに取り組みます。今年度、生徒が挙げたテーマの例としては、「本人の意思に沿った延命治療をどうすれば行うことができるか」「水素自動車は地球温暖化を救えるのか」などがありますね。

高校生も年度末に発表の機会を設けています。1年生は中学と同じく「ポスターセッション」、2年生ではスライドを使ったプレゼンに取り組みます。中には英語で発表をするグループもいるんですよ。

編集部

中学の学びを生かし、さらに発展させた形でアウトプットしていくのですね。大学や社会でも大いに役に立つ経験になるのではないかと感じます。

短期・中期・後期の留学など多彩な国際交流の機会を設けたグローバル教育

清教学園中学校において多読指導等に使われている英語の教材

編集部

清教学園中・高等学校はグローバル教育にも力を入れていると伺いました。例えば、どのような取り組みをしているのですか?

森野先生

中学3年生全員がオーストラリアに研修旅行に行きます。コロナ禍前には、生徒は8校程度に分かれ、1人1家庭にホームステイしていました。現在は2人1家庭のホームステイになっています。

現地での1日の過ごし方としては、午前中は15人以下で授業を受け、午後は午前中に学んだ内容とできるだけ紐づけて、現地でしかできない活動を行います。

このような全体行事ばかりではなく、自主的に短期・中期・長期といった様々な語学研修や留学にチャレンジすることを決意する生徒がたいへん多いのも本校の特徴です。

編集部

留学はどのような選択肢があるのでしょうか?

森野先生

短期では、姉妹校のあるアメリカやオーストラリアのほか、フィリピンのセブ島、イギリスの大学での研修など様々です。それぞれ2~3週間くらいのプログラムです。中期では、3か月のターム留学や半年留学でオーストラリア、カナダ、アメリカ等に出かけますが、学校独自の奨学金も支給しています。1年間の長期留学に出る生徒も多いです。

編集部

留学一つとっても、さまざまな選択肢を用意しているのですね。

海外から年間300人の生徒・教員を招いて行う“アカデミックな交流”

清教学園中・高等学校のイングリッシュルーム

▲主に英会話の授業で使われているイングリッシュルーム

編集部

校内ではどのように英語を学べるのでしょうか?

森野先生

年間で300名以上の生徒や教員が海外の学校から来てくださり、様々な交流を行っています。本校は文部科学省からSGH(スーパーグローバルハイスクール)のアソシエイト校(※)に選ばれたことをきっかけに、単純な文化交流や親善交流ではなく、アカデミックな交流を増やしていきました。
(※)SGHには、グローバル・リーダーの育成を目指し、社会やビジネス課題について教科横断的に学ぶ学校が指定される。アソシエイト校は、SGH指定校に準ずる学校としてSGH構想に則った教育に取り組む。

たとえば、数学の教育レベルが高いインドの生徒に、本校の数学の授業に参加してもらったり、大統領選の時期に来日してくれたアメリカの生徒と、18歳に引き下げられた日本の選挙権について意見交換をしたりしてきました。

編集部

留学に行かなくても海外の文化や刺激に触れられる機会を用意しているのですね。

英会話教室の講師からよりハイレベルな英語を学べる補講も実施

編集部

そのほかにも、グローバル教育で凝らしている工夫などがございましたらお聞かせください。

森野先生

英会話の授業にはネイティブと日本人の教員がチームティーチングで入るようにしていて、多いと計4人が加わることもあります。それだけ、授業は丁寧に進めています。

また、放課後に英会話スクール「ベルリッツ」の先生を呼び、英語でディスカッションやディベートをする希望制の「Global English補講」も開催しています。そこではリーディングも「英語を英語として理解する」ハイレベルな内容になっています。

補講は1回80分で年20回ほど行い、毎年50人ほどの生徒が参加しています。費用は英会話スクールの授業料の1/5や1/10程度で、英語をどんどん勉強したいという生徒には非常に好評です。

編集部

生徒だけでなく、保護者の方々にとっても非常にありがたい制度ですね。

伝統の「英語降誕劇」では全員がそれぞれの役割を全うする

清教学園中・高等学校のチャペル

▲英語降誕劇が行われる学内のチャペル

編集部

清教学園中・高等学校には、伝統的な学校行事などはございますか?

森野先生

こちらも英語に関連していますが、中学2年生が毎年12月にイエス・キリストの降誕を演じる「英語降誕劇」に取り組みます。これは、キリスト教への理解に加え、演劇、英語、音楽などの要素が盛り込まれた60年以上続く伝統行事です。

劇では、学年の生徒約150人全員に何かしらの役割が与えられます。舞台で演じるキャストや、ストーリーを日本語で解説するナレーター、賛美歌を歌う聖歌隊、リコーダーやオルガンを奏でる演奏者、クリエイティブ・スタッフ(照明・小道具係など)がいますね。

準備期間は2学期の期末試験が終わってからの10日ほどで、スケジュールはかなりタイトです。その分、普段の授業とは違った姿勢、熱意を持って取り組む生徒が多いですし、教師もかなり集中して取り組んでいます。

編集部

英語降誕劇を経験した生徒の感想には、どのようなものがあるのでしょうか?

森野先生

みんなで一つの劇を作り上げたことに達成感を感じている生徒が多いです。あとは、自分が取り組み、経験したことを後輩に伝える伝統もあるので、責任感が芽生えたという生徒もたくさんいます。

そういったこと全てを含めて、英語降誕劇は本校での成長の通過儀礼のような位置付けとなっています。これをしっかりとやり遂げることで、中学3年生に進級するためにふさわしい風格を身につける、といったところです。

編集部

英語降誕劇がとても大切な行事であることが分かりました。

ここまでのご紹介で、生徒が主体的に学び、世界を舞台に活躍するための土台をつくれるような環境が、清教学園中・高等学校にはあると感じました。森野先生、ありがとうございました!

清教学園中・高等学校の特徴的なスポット・設備

ここからは清教学園中・高等学校の特徴的なスポットや設備について写真でお伝えしていきます。

こちらは最寄り駅「河内長野駅」から学校までの道のりにある専用通学路「しらかしの径」です。自然に囲まれたこの道を通り、駅から徒歩約10分で学校に辿り着けます。

しらかしの径

▲しらかしの径

チャペルにあるパイプオルガンは、礼拝で美しい音色を響かせます。

チャペルにあるパイプオルガン

▲チャペルにあるパイプオルガン

生徒がグループワークやプレゼンテーションの練習をするスペースが「ラーニングコモンズ」です。Wi-Fiが備わった部屋で、生徒は情報端末を存分に活用できます。生徒の成長段階に応じて、生徒自身が自分に合った情報端末を持ち込むBYOD(Bring Your Own Device)方式を採用しており、生徒たちの多様な学びに対応できる環境になっています。

ラーニングコモンズ

▲ラーニングコモンズ

高校3年生が集う放課後の勉強スペースは「沈黙の自習室」と呼ばれています。受験期には110席が3年生で埋まり、集中力が張り詰めたこの空間は沈黙で包まれます。部屋の後ろにはさまざまな大学の「赤本」も並んでおり、生徒が自由に手にとって利用できるようになっています。

沈黙の部屋

▲沈黙の自習室

清教学園中・高等学校の進学・合格実績

清教学園中・高等学校では、地元関西の京都大学や大阪大学、神戸大学などに合格者を輩出しています。また、2022年度は卒業生388人のうち、39.2%に当たる152人が現役で国公立大学に合格。私立大学を含めた現役合格率は91.5%に上っています。

さらに、関西の有名私立大学への合格者も多く、2022年度は同志社大学に63人、関西学院大学に66人、立命館大学に97人、関西大学に249人が現役合格を果たしています。

■大学合格者数(清教学園中・高等学校公式サイト)
https://www.seikyo.ed.jp/cource/applicant

清教学園中・高等学校卒業生の声

最後に、清教学園中・高等学校の卒業生の声をご紹介します。

勉強に専念する人もいれば部活を楽しむ人もいる、十人十色で素敵な学校です。どのような進路を目指しても先生方は応援してくれて、それぞれのレベルに合わせた補講もありました。

高校1、2年生は、定期テストや模試に向けて勉強をしつつ、部活や遊びも楽しんでいる人が多いイメージです。3年生になると受験モードへと切り替わり、緊張感がありました。

先生方は熱心で面倒見が良く、勉強だけでなく日常生活の悩みについても相談に乗ってくださいました。校則はとても厳しいわけではなく、生徒はのびのびと学校生活を過ごしている印象でした。

元気が良く、礼儀正しい生徒が多い学校だと思います。卒業生であることを誇りに思います。

勉強と部活を両立している生徒が多いといった意見が多く見られました。また、教員が親身になって勉強や学校生活のサポートをしてくれるという声も目立ちました。

お問い合わせ

問い合わせ先 清教学園中・高等学校
住所 大阪府河内長野市末広町623
電話番号 0721-62-6828(代表)
公式サイト https://www.seikyo.ed.jp/