国立「埼玉大学教育学部附属中学校」は、探究型学習で生徒の”挑戦心”を育む

ぽてん読者の皆さまに、注目の学校を紹介するこの企画。今回は埼玉県さいたま市の国立中学校、埼玉大学教育学部附属中学校を紹介します。

同校は1947年に埼玉大学教育学部の附属中学校として創立しました。附属小学校からの進学生も多い中、内部進学生と一般受験生の区別なくさまざまな機会を通じて仲を深めていける環境があります。生徒の「挑戦心」を育む探究型の教育プログラムで、多くの難関校への合格者も輩出しているのも特徴です。

今回はそんな埼玉大学教育学部附属中学校の教育の特徴や学校生活の魅力について、校内教頭の髙橋先生、研究部長の山本先生、指導部長の小西先生にお話を伺いました。
※取材にご対応いただいた先生の役職は、取材当時の役職です
(取材は2024年2月29日実施)

何事も「全力」でやり切るのが埼玉大学教育学部附属中学校の教育方針

埼玉大学教育学部附属中学校の髙橋先生、山本先生、小西先生

▲インタビューにご対応いただいた山本先生(左)・髙橋先生(中)・小西先生(右)

編集部

埼玉大学教育学部附属中学校で大切にされている教育方針を教えてください。

山本先生

埼玉大学教育学部附属中学校では「正しい判断力とたくましい実践力を持った自主的人間の形成」を教育目標に掲げています。その目標を達成するために大切にしているのが、「全力」というキーワードです。何事にも全力で取り組む姿勢を大切にすることで、生徒の判断力や実践力、自主性を育んでいこうというのが本校の教育方針です。

髙橋先生

学業だけでなく掃除など学校生活におけるあらゆる場面で「全力」の重要性を伝えているため、生徒たちにも全力でやり切る姿勢が身についているなと感じます。

生徒同士が協力しながら全力で物事にあたっているのも特徴です。それを象徴するのが「中央委員会」の取り組みで、そこでは生徒会本部役員や各種委員会の代表などが集結して、学校をより良くするための新しい取り組みの検討が行われています。仲間と協力しながらさまざまなことに全力で取り組むという、社会でも必要な力を培っていける環境があると思っています。

教育で特に重点を置くのが、これからの時代を生き抜く「挑戦心」の育成

編集部

埼玉大学教育学部附属中学校では、教育目標のもとで学校経営方針も設定されているとお聞きしたのですが、こちらはどのようなものでしょうか。

山本先生

本校では、学校教育目標を具現化していくために、学校経営方針が位置付けられています。令和5(2023)年度の学校経営方針は「愛情・自尊心・挑戦心」です。その中でも「挑戦心」には特に重点を置いています。

さまざまな生徒実態調査のアンケート結果を見ると、本校は学習意欲や生活態度といったさまざまな項目で全国平均より高い結果なのですが、その一方でここ数年は「挑戦」の面でやや消極的な結果が出ています。実際に教員が生徒の様子を見る中でも、難しいことへの挑戦を恐れていたり、周囲の目が気になって消極的になってしまったりという傾向が見て取れます。

埼玉大学教育学部附属中学校では、これからの時代を生きていくためには未知の世界に飛び込む「挑戦心」がとても大切だと考えています。そのため、学校生活の中でより多くの挑戦ができるような機会を創出していくことを学校方針として掲げています。

そして恐れずに挑戦していくためには今の自分を認め、肯定する心も重要です。さらに豊かな学びとしていく上で、集団の中で高め合い、協働で互いを思いやりながら学びを深めていくことも必要です。そのため「自尊心」や「愛情」も方針に含んでいます。

“探究”をキーワードに、生徒が挑戦できる授業を行う

埼玉大学教育学部附属中学校の総合学習の様子

▲「附中トライアル」における探究活動(まとめ・表現)の様子 

編集部

埼玉大学教育学部附属中学校の教育方針は、日々の教育活動のどういった点に落としこまれているのでしょうか。

山本先生

各教科の授業では“探究”をキーワードに、生徒の「挑戦心」や「仲間との協働」を喚起する工夫をしています。例えばある単元のテーマに入る際には、すぐに答えの出ないような広い問いを生徒に投げかけるんです。理科の授業で音について学習するのであれば、「音の大きさの単位は?」というような調べれば答えが出る問いではなく、「音とは何か?」というような問いを生徒に与えるわけですね。

答えのない問いかけをすることで、問いに対する「知りたい」という知的欲求が生まれます。だからこそ、生徒たちはわくわくしながら挑戦していくことができるのです。さらに、仲間と一緒でないと解決できないような課題も与えながら、協力して学びを深められる環境づくりも行っています。

ポイントは、生徒が主体となって探究を進める点です。教員は必要な知識を教え、要所要所でアドバイスを行いますが、最終的には生徒たち自身が問いに対する答えを出していく、というのが本校の授業の特徴です。

編集部

埼玉大学教育学部附属中学校ではそういった探究の力を、授業以外でも身につけられる機会があるのでしょうか?

山本先生

埼玉大学教育学部附属中学校では「附中トライアル」という、教科横断的・体験的な総合学習のカリキュラムを実施しています。その時間を通じて生徒は「課題の設定、情報の収集、整理・分析、まとめ・表現」という探究のサイクルを身につけていきます。1年生では探究の基礎やマナーを学び、2、3年生ではテーマを絞って実践的な探究を行っており、段階を踏んで探究の力を培っていくことができるのもポイントです。

美術の時間では、ファッションショーのプロデュースにも挑戦!

埼玉大学教育学部附属中学校のファッションショーの様子

▲生徒がプロデュースしたファッションショー

編集部

小西先生は美術を担当されているとのことですが、美術の授業においても生徒の方の「挑戦」を具現化した取り組みなどは実施されていますか?

小西先生

中学3年生に対して「ファッションの可能性について考える」という探究の授業を実施し、その中で生徒プロデュースのファッションショーを実施しました。服の制作からモデル、ファッションショーの照明や音楽、演出まで、すべて生徒が担当したんですよ。ファッションショー当日もすごく盛り上がりました!

編集部

すべて生徒さんが担当したというのはすごいですね!何かテーマを設定したのですか?

小西先生

「◯◯を着る」という大きなテーマだけ与えて、具体的なテーマ設定は生徒たちに委ねました。1人でデザインをする子もいればチームでデザインをする子もいて、「数学を着る」「夜空を着る」「情報を着る」など独創的なテーマもたくさんありました。テーマによって素材選びもさまざまで、例えば「夜空を着る」の場合は電飾をドレスにつけて光らせていました。

▼個性あふれる作品がたくさん登場。モデルも生徒自身が務める
埼玉大学教育学部附属中学校のファッションショーの様子
埼玉大学教育学部附属中学校のファッションショーの様子

編集部

ファッションショーが終わった後の生徒さんからの感想にはどのようなものがありましたか?

小西先生

テーマ設定を自由にした分本当に多様な表現が生まれたためか、「表現には正解がないと感じた」という感想が印象的でした。また仲間と一緒に取り組んだり、仲間の表現を目にしたりしたことで「3年間一緒に過ごしてきた仲間の違う一面が見れた」といった感想もありましたね。

編集部

先ほどの山本先生のお話に通じる、答えのない問いに対して、仲間と一緒に挑戦したからこそ生まれた感想ですね。

埼玉大学教育学部附属中学校のファッションショーの校内展示

▲校内展示では生徒の作品とともに、生徒の感想も見られる

多くの教育実習生との一期一会の出会いも、愛情・自尊心・挑戦心を育む

編集部

その他にも、埼玉大学教育学部附属中学校の学校生活で「愛情・自尊心・挑戦心」が表れている場面があれば教えてください。

髙橋先生

本校は埼玉大学教育学部の附属校のため、毎年80名程度と非常に多くの教育実習生の受け入れをしています。毎年いろいろな実習生の方との出会いがあるわけですが、生徒の皆は一期一会の出会いをとても大切にしているなと感じます。

教員の方から働きかけなくても、実習最終日は生徒主体のお別れ会を企画し、歌を歌ったり寄せ書きを贈ったりしているんです。そうした感動的な場面が生徒の手によって生まれるのも、やはり挑戦心や自尊心、愛情が養われているからこそだなと思っています。

“学校週番活動”や“専門家とのつながり”も埼玉大学教育学部附属中学校らしさ

埼玉大学教育学部附属中学校の校舎中庭テラス

編集部

埼玉大学教育学部附属中学校でどのような学校生活を送ることができるのかも伺います。御校らしさが伝わるような独自の取り組みなどはありますか?

山本先生

「学校週番活動」という埼玉大学教育学部附属中学校ならではの取り組みがあります。2年生の後半から3年生の前半までが行う取り組みで、およそ8名ずつの週番制で掃除の見守りや挨拶運動、下校の呼びかけなど生徒による自治活動を行っています。

学校週番活動で特徴的なのが、週番の担当生徒が朝会の場で、学校の自治活動に向けた自身の目標を全校生徒に話す機会がある点です。集団における社会性を養い、生徒主体の学校自治を進めていく上で大切な取り組みとなっています。

編集部

なるほど。そういった校内活動に加え、行事やイベントなどで埼玉大学教育学部附属中学校の独自性が見られるものがあれば教えてください。

山本先生

学校外のいろいろな団体、組織の方とのつながりを活かして学校行事を実施している点は、本校ならではの特徴といえるかもしれません。附属大学との連携はもちろん、他にもさまざまな専門家の力をお借りしながら生徒を一緒に育てています。

例えば修学旅行は京都・奈良に行っていますが、そこでは「北野界わい創生会」という地域振興の専門団体にご協力いただき、ガイドを行ってもらっています。中学3年生で実施する演劇では、講師に演劇協会の理事を招き直接指導いただいたり、成果発表披露の場で総評をいただいたりしています。そうした外部の専門家とのつながりは、生徒たちが本物に触れる機会を享受することにもつながっています。

埼玉大学教育学部附属中学校では新たな取り組みもいろいろと導入していますが、この「学校週番活動」や外部専門家とのつながりというのは、昔から変わらず続けている本校らしい取り組みです。

独創的なオリエンテーションが、生徒間の距離を一気に縮める!

▼オリエンテーションでは、力を合わせることで距離を縮める

埼玉大学教育学部附属中学校の新入生オリエンテーションの様子

埼玉大学教育学部附属中学校の新入生オリエンテーションの様子

埼玉大学教育学部附属中学校の新入生オリエンテーションの様子

スクロールで写真が見られます→

編集部

埼玉大学教育学部附属中学校は小学校からの連絡進学生と中学校からの受検生がいるのも特徴的ですよね。中学から入学する場合は、連絡進学生の雰囲気に馴染めるか不安を感じる方も多いと思いますが、その点はいかがでしょうか。

髙橋先生

小学校からの連絡進学の生徒が約6割、中学校からの生徒が約4割という割合なのですが、全体のコミュニケーションを円滑化するために、入学後の4月中旬に1泊2日の新入生オリエンテーション合宿を実施しています。

そのオリエンテーション合宿では、クラスを小グループに分け、チームビルディング活動などを通じて絆を深めるチャレンジを行います。外部のファシリテーターの専門家も招聘して打ち合わせを行い、グループの人間関係や特性に応じて異なる課題を設定しています。

編集部

そこにも先ほどおっしゃった外部の専門家の力が活かされているのですね。オリエンテーション合宿では実際にどのような活動を行うのですか?

髙橋先生

「皆で力を合わせて1つのことを達成する」という目的のもと、さまざまな活動を行います。例えば10数人に分かれて大きなシーソーのバランスを取るとか、1人が高いところに昇って、他の生徒が命綱を持って「仲間を信じてジャンプしよう」といった取り組みなども実施します。ファシリテーターの専門家の方に協力いただきながら、さまざまなアクティビティを通じて子どもたちも一気に打ち解けることができています!

制服は「生徒デザイン」で50年ぶりにリニューアル

編集部

埼玉大学教育学部附属中学校では制服のリニューアルを予定されているそうですね?

小西先生

制服のリニューアルは実に50年ぶりです。実は現在の制服も、生徒がデザインしたものなんですよ。大人が決めた制服を着て生活するのが普通になっている中で、生徒たちが企画から携わった制服を採用するというのは、他にはない埼玉大学教育学部附属中学校ならではの取り組みですね。

リニューアルした制服は2025年度から採用予定で、現在は選考中の段階です。特別支援学校も含めた全校生徒から制服デザインを公募するという約2年のプロジェクトで、多様性のある制服のアイディアがたくさん生まれました。

その中から3案に絞りサンプルを制作しているところで、制服業者と生徒自身がやり取りをしながらプロジェクトを進めています。デザインした生徒が皆の前でプレゼンして、投票で決定した制服が採用されます。どんな制服になるのか、私たちも楽しみですね。

部活動はクラブに移行し、より専門的な指導を受ける

編集部

埼玉大学教育学部附属中学校の部活動についても教えてください。現在はどのくらいの部活数があるのでしょうか?

小西先生

埼玉大学教育学部附属中学校では現在16種類の部活動があり、2024年6月から、運動部は株式会社スポーツストーリーズ、吹奏楽部はアンサンブルルヴァンという外部団体に講師を依頼し、クラブに移行していきます。その他の文化部はサークル化する予定です。平日は指導者の提示したカリキュラムに沿って練習し、土曜日に指導をいただくスタイルに変わります。専門家に指導を委任することにより、生徒がより専門的な指導を受けられる環境となります。

クラブ化に加え、生徒が任意のメンバーで活動するサークル活動の導入も進めています。そこでは同じ興味、関心を持つメンバーが集まって、自主的な活動を行います。教師など誰かから与えられたものではなく、自分たちの意思でさまざまなサークル活動ができるのも、本校ならではの魅力だと思います。

埼玉大学教育学部附属中学校からのメッセージ

編集部

最後に、埼玉大学教育学部附属中学校に興味を持った読者の方に向けてメッセージをお願いします。

髙橋先生

本校は附属高校のない中学校のみの環境なので、中高一貫校をお探しの場合はそこが気になる方もいらっしゃるかもしれません。しかし中学3年生というのは、自分の意思が芽生えてきている時期です。お子様自身の希望や目標に応じた進路選択をし、そのために努力をできるのは中高一貫ではないからこそのメリットだと考えています。

本校の3年間を通じて、お子様は何事にも全力で取り組む中で自分のやりたいことを見つけ、それに向けて必要な努力できる力を育むことができると思っています。ぜひ埼玉大学教育学部附属中学校に興味のある方は選んでいただければと思います。

編集部

本日はありがとうございました!

埼玉大学教育学部附属中学校の生徒、保護者からの口コミ

ここでは、埼玉大学教育学部附属中学校の在校生や卒業生、保護者の方の口コミを一部抜粋して紹介します。

いろいろな個性を持つ生徒がいるが、尊重し合って穏やかな雰囲気の中で学校生活を送ることができる。

内部生と外部生の壁は感じない。特に最初のオリエンテーションで一気に打ち解け、仲良くなることができる。

学習習慣の身についた生徒が多い。先生も熱心かつフレンドリーで、学習サポートをしてくれる。

授業の質が高いと感じる。テストは記述式が中心でレベルが高いが、考える力が身につく。

さまざまな口コミから、生徒同士が尊重し合って良い雰囲気の中で学校生活を送れることが伝わってきました。内部進学生と中学校から入学した生徒の壁もなく、仲良く過ごすことができるという声も多く聞かれました。また、質の高い授業や先生による学習サポートなど、学習面での魅力をあげる声も多いのが特徴です。

埼玉大学教育学部附属中学校の基本情報

住所 埼玉県さいたま市南区別所4-2-5
電話番号 048-862-2214
公式URL http://www.jhs.saitama-u.ac.jp/