私立中高一貫校「女子美術大学付属高等学校・中学校」で身につく3つの“美”とは

ぽてん読者の皆さまに、今注目の学校を紹介するこの企画。今回は東京都杉並区にある私立中高一貫女子高の「女子美術大学付属高等学校・中学校」を紹介します。

女子美術大学付属高等学校・中学校、通称「女子美(じょしび)」は国内唯一の美術大学付属校で、美術家やクリエイター、女優など他分野で活躍する数々の著名人を輩出しています。美術に関連した内容で一般教科の授業を行うなど、すべての活動の中心に美術を据えた特色ある教育を推進しています。

そんな女子美の教育方針や特徴的な授業内容について、広報部主任の並木憲明先生にお話を伺いました。

女子美術大学付属高等学校・中学校の教育理念

女子美術大学付属高等学校・中学校の並木先生

▲取材にご対応いただいた並木先生。広報業務のみならず、美術科教諭として生徒に美術の楽しさを伝えている

編集部

まずは、女子美術大学付属高等学校・中学校の教育理念を教えてください。

並木先生

本校は、美術教育を通して「我が国の文化に貢献する有能な女性を育成する」を教育理念に掲げています。もともとは明治時代、女性の社会参画が認められていなかったことに疑念を抱いた2人の女性(※)が創設した「私立女子美術学校」を起源としており、その想いが現在の教育理念にも受け継がれているんです。
(※)横井玉子、佐藤志津

その理念の実現に向けて大切にしているのが、「智の美」「芸(わざ)の美」「心の美」の3つの美です。「智」は勉学、「芸」は美術を通した自己表現、「心」は自己と向き合い他者を尊重する心を表しています。

そして「美」には、“あなたらしさ”を大切にするという意味が込められています。他者の決めた基準を目指すのではなく、美術を通じて自分らしさを見出していくのが本校の教育の目指すところです。

技術ではなく“個性”を最大限に引き出す教育方針で、多くの卒業生が活躍

女子美術大学付属高等学校・中学校のアトリエ

編集部

女子美術大学付属高等学校・中学校では、どのような方針で生徒の皆さんを教えていらっしゃるのでしょうか。

並木先生

美術の学校というと、専門的な技術指導をイメージされる方が多いかと思います。しかし、本校はあえて専門性を大きく謳わないようにしています。そういう意味では、世間一般の「美大受験」のイメージとは対極にある学校といえるかもしれません。

美大の実技試験を想定するなら、合格のための知識・技術を教え込むのが普通です。しかし私たちは、生徒の良さを最大限引き出すことに重点を置いています。実際、本校の中学校入試では実技試験を課しておらず(※)、ほとんどの生徒がそのまま高校、大学まで実技試験なしで進学できます。
(※)高校入試には実技試験あり。

私自身も美大受験を経験しているため、この学校に来て自分の中の固定概念が覆るような感覚がありました。とはいえ、もちろん必要な指導を行わないということではありません。指導によって個性を型にはめてしまうのではなく、その子の個性をパワーアップさせて送り出す、“相似形”で大きくしていくのが本校の教育の魅力です。

例えるなら、庭師の手できっちりと整えられた日本庭園ではなく、自然のままの景観を楽しむイングリッシュガーデンのイメージでしょうか。もちろん、強い根を張って育つようなサポートは欠かさないようにしています。

編集部

生徒の良さや個性を引き出していく上で、先生はどういった指導を行っていますか?

並木先生

先生による指導というより、高め合える“環境”を提供しているという方が本校の教育に近いかもしれません。というのも、バイオリンやお琴のように先生に師事する「レッスン型」の学びと違い、美術の学びは「アトリエ型」なんです。同じモチーフを皆で囲んで描いていくデッサンのように、アトリエで複数人と一緒に励むことが、一番の学びだと思っています。

そのために本校が提供しているのが、アトリエや専門的な用具などの施設、そして良い仲間たちと磨き合っていける環境です。もちろん本校には専門分野を持つ教員が多くいますが、それも本校が提供できる良い環境の一部だと考えています。

女子美術大学付属高等学校・中学校には、吉田ユニさん(※1)やAmyさん(※2)など、アーティストやデザイナーとして活躍している卒業生が多くいます。ただ、本校の技術指導の賜物だという感覚はなく、良い環境で育ったことで、本人の持つ個性や強みがパワーアップした結果だと思っています。
(※1)吉田ユニ:アートディレクター/グラフィックデザイナー。大手商業施設の広告や人気アーティストのCDジャケットなど多方面で活躍している
(※2)Amy(エイミー):サンリオのキャラクタークリエイション室に所属。「ぐでたま」を世に送り出したキャラクターデザイナー

女子美術大学付属高等学校・中学校の元学長・佐野ぬいさんの絵画

▲校内には女子美術大学出身・元学長の高名な洋画家「佐野ぬい」さんの絵画も飾られている

美術を中心にした学びを得られる独自のカリキュラム

続いて、美術の授業や一般科目の授業など、女子美ならではの独自性あふれるカリキュラムについて伺いました。

中学校では「好き」の気持ちを高め、高校では実技コースに分かれ美術を学ぶ

女子美術大学付属高等学校・中学校の共通工房の様子

編集部

御校の美術の授業は、中学校・高校それぞれでどのくらいの時間行っているのでしょうか。

並木先生

中学校では2時間授業を週2日、合計で週4時間の美術の授業を行っています。高校からは、1年生では週7単位、2・3年生では週10単位と時間が増えます。

編集部

中学校で美術の授業が週4時間というのは、一般的な公立校と比べて多いですよね。

並木先生

一般的な公立中学校と比べると、美術の授業時間は約4倍です。ただし、美術を学びたくて女子美術大学付属高等学校・中学校に入学した生徒や保護者からすると、やや少なく感じられるようです。

あえて美術の授業時間を抑えめにしている背景には、大きく2つの理由があります。1つ目は「勉学にも重点を置く」という本学の方針です。”知性”が”感性”を支える。「智の美」を身につけていくためにも、美術よりも英語の時間数を多くするなど、他の科目も総合的に学べるようなカリキュラムとしています。

2つ目は、生徒の「好き」の気持ちをなくさないよう情操面を重視した教育を行っている点です。先ほども言った通り、本校は専門的な技術習得を主眼に置いた学校ではありません。豊かな教育環境の中で美術を楽しむことこそが、「好き」の気持ちを持続させる秘訣だと考えています。

編集部

生徒の「好き」を尊重するからこそ、「もっとやりたい」という気持ちが喚起されるのですね。具体的に授業ではどのような内容を行っているのでしょうか。

並木先生

中学1年生では絵を描くことが中心で、2年生はいろいろな素材に触れながら作品を制作していきます。そして3年生では基礎デザインと基礎絵画を学んでいきます。

女子美術大学付属高等学校・中学校の校舎内プチギャラリーにある生徒の作品

▲中学校で行う基礎デザインの授業。「ふさふさ」「つぶつぶ」などの言葉が視覚化されている

並木先生

高校1年生になると、「絵画」「デザイン」「工芸・立体」という3つのカテゴリーの実技と美術史を学びます。高校2年生からはそこでの学びを踏まえて絵画コース、デザインコース、工芸・立体コースを選択します。

高1の時点でどのコースにするのかを決めている子もいますが、一度決めると変更なしでそのまま卒業までそのコースで学んでいくことになるため、かなり悩んだ上で選択する子が多い印象です。

編集部

高校では卒業制作も行いますか?

並木先生

はい。本校では8割超の生徒が大学受験がない分、卒業制作は高校3年生の夏頃から学校生活の最後まで力を注ぎます。卒業制作は受験代わりという位置づけではありますが、それをもって大学の合否が決まるというものではありません。学校生活の集大成として自分自身の作品をつくるという意味合いの方を重視しています。

一般科目も「美術」を題材にすることで、学ぶ意欲を高める

女子美術大学付属高等学校・中学校の教室

編集部

美術以外の教科についても教えてください。御校ならではの授業内容の特徴などはありますか?

並木先生

女子美術大学付属高等学校・中学校では一般教科と美術を横断させた特色ある授業を展開しています。その最たるものが“Art ENGLISH”という本校オリジナルの英語のカリキュラムで、アート用語や表現、鑑賞方法など美術を題材に、ネイティブ教員とのT.T.授業を実施しています。

編集部

美術を題材に英語を学ぶというのは、アート分野でのグローバルな活躍を見越しているからなのでしょうか。

並木先生

もちろんそれも目的の一つです。それと同時に、美術という生徒たちに共通する好きなジャンルで学ぶことで、美術以外の教科への学習意欲を高めていくというのも狙いです。生徒たちの「好き」の気持ちをどう学びにつなげていくか、一般教科の各担当教員がさまざまな工夫を凝らしていますよ。

英語の他にも、高校1年生の化学の授業で化学式を覚えるために元素記号をキャラクター化する課題を出すなど、ユニークな授業内容が展開されています。「水素はこんなタイプのイケメンのはず」なんて話し合いながら、100人以上イラストを描いたりしているんですよ(笑)。

「美術」を通じて高め合う、女子美術大学付属高等学校・中学校の学校生活

女子美術大学付属高等学校・中学校の校庭

▲杉並区の都心に立地しながら、広い校庭も備えるキャンパス

美術が好きな生徒の集う女子美術大学付属高等学校・中学校では、どのような学校生活を送ることができるのでしょうか。ここからは学校全体の雰囲気や部活動、キャンパス内の様子など、“女子美”らしい学校生活に迫っていきます。

作品制作を通じて一体感を醸成。卒業後も生徒同士のつながりが続く

女子美術大学付属高等学校・中学校の並木先生

編集部

女子美術大学付属高等学校・中学校には全体的にどのような雰囲気の生徒が多いと感じますか?

並木先生

「心の美」に表されるように、他者を理解し尊重する生徒が多いと感じます。特に美術をテーマにしたときに、多種多様な個性を持つ生徒に一体感が生まれるんです。全然雰囲気の違う生徒同士が美術を中心に交流をしている姿は、本校だからこそ見られる光景といえるでしょう。

編集部

そういった生徒同士の一体感は、学校生活の特にどういった場面で見られますか?

並木先生

やはり学校行事の場面ではないでしょうか。1人だけの力ではできない創作物を手掛けることも多く、そういうときには生徒同士の協力体制が重要となります。本校の生徒はお互い得意分野を把握し合っており、適材適所で役割分担しながら作品をつくり上げていくんです。信頼と協力のもとで作品をつくるその姿はすごいなと感心します。

この生徒同士のつながりは、卒業して社会に出た後でも活かされています。一例として、リカちゃん人形やプラレールで知られる株式会社タカラトミーには本校のOGが集結して一緒に仕事をしているんですよ。卒業した後も、世代を問わず「女子美」という共通項でつながることができるのは、本校の特徴だと思います。

アニメ、クロッキー、ファッションアートなど好きなジャンルを深められる部活動

女子美術大学付属高等学校・中学校のアトリエ

編集部

女子美術大学付属高等学校・中学校の部活動についてもお聞きしたいのですが、どのような部活動がありますか?

並木先生

運動部や文化部などさまざまな部活動がありますが、やはり美術系の活動をする生徒が多いですね。授業が主食、部活がおやつのような感じになっています(笑)。

美術系の部活動も、「美術部」で一括りにされているのではなく、アニメ部やイラスト研究会、絵本部、クロッキー部などと、かなり細分化されています。より生徒の興味に合わせた活動を行うことができるのが特徴です。

校舎の至るところで、生徒の美術作品に触れられる

女子美術大学付属高等学校・中学校の校内展示の様子

▲「プチギャラリー」のほか、階段にも生徒の作品を展示

編集部

御校の学校生活では、美術作品を鑑賞する機会も多いのでしょうか。

並木先生

中学1年生から高校3年生のすべての学年で、美術館・博物館を訪れる美術鑑賞を年に一度実施しています。そういった校外での活動はもちろん、校内にニケ像があったり、生徒の作品が至るところに飾ってあったりと、学校生活の中で常に美術に触れられる環境があります。

女子美術大学付属高等学校・中学校の敷地内にあるニケ像

▲キャンパスは女子美術大学とも共有している。これは敷地内にある「ニケ像」

並木先生

また、生徒の卒業制作を東京都美術館に展示する「卒業制作展」も実施しています。卒業制作の中で優秀作品に選ばれたものは校内のエントランスギャラリーに飾っているため、先輩たちの優秀な作品に触れて刺激を受けることもできます。

女子美術大学付属高等学校の卒業制作の作品

女子美術大学付属高等学校の卒業制作の作品

女子美術大学付属高等学校の卒業制作の作品

女子美術大学付属高等学校の卒業制作の作品

女子美術大学付属高等学校の卒業制作の作品

スクロールで写真が見られます→

付属校として大学の学びを先取り可能!美術系以外の進学もサポート

女子美術大学付属高等学校・中学校の学校入口

編集部

卒業後は、女子美術大学に進学される方が多いのでしょうか。

並木先生

9割弱が女子美術大学に進学します。その他の大学の場合も、ほとんどが美術系大学です。

編集部

女子美術大学の付属校として、大学と連携した学びの機会などもありますか?

並木先生

女子美術大学・女子美術大学短期大学部の教授に授業を行っていただく「中高大連携授業」を実施しています。作品講評会の際にお越しいただくことが多く、生徒にとっても大学の教授に作品を見てもらえる貴重な学びの機会となっています。

また高校3年生を対象に女子美術大学の講義を先取りして履修できる「科目等履修」のシステムを設けているのも、付属校ならではの特徴です。高校生のうちに単位を履修し、アドバンテージを持って入学できることは、大学でより豊かな学びを得るための大きなメリットといえるでしょう。

編集部

美術系以外の進路を選択する生徒に対するサポートがあれば教えてください。

並木先生

美術系以外の進路選択が明確となっている生徒は、高校3年生の1年間、週10単位の美術の時間を学科の授業に振り替えることができます。学年の中で美術系以外の進学希望が1人だけだったとしても、その生徒のために学科の授業をやっていますよ。

女子美術大学付属高等学校・中学校が大切にしているのは、生徒の「好き」を応援することです。6年間を過ごす中で美術以外に興味が出た場合でも、しっかりとその「好き」の気持ちを尊重してサポートできたらと思っています。

女子美術大学付属高等学校・中学校からのメッセージ

女子美術大学付属高等学校・中学校の並木先生

編集部

最後に、女子美術大学付属高等学校・中学校に興味を持ったお子様、保護者様に向けてメッセージをいただけますか?

並木先生

女子美術大学付属高等学校・中学校は美術を好きな人が集まる学校です。もっというと、美術を好きでない人、これから好きになりたい人は本校以外の選択肢を選んだ方が良いかもしれません。

美術を好きな気持ちがあれば、入学時点で技術がなくても構いません。好きなことを実力に変え、夢を実現できるよう本校でサポートしていきます。美術が好きな子はぜひ本校にお越しください!

編集部

並木先生、本日は貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました!

女子美術大学付属高等学校・中学校の生徒の口コミ

女子美術大学付属高等学校・中学校の校内で咲く花々

女子美術大学付属高等学校・中学校に通う生徒の皆さんは、学校生活をどのように感じているのでしょうか。

個性や自由を重んじる校風でのびのびと過ごせる。作品づくりを通じて、良いところを認め合い尊重し合える雰囲気が醸成されている。

現役で作品を作っている先生が多く、生徒だけでなく先生とも切磋琢磨しながら成長できる環境がある。

全クラスに電子黒板があったり、大学の図書館を利用できるため稀少な美術関連図書が読めたりと、環境面がとても充実している。

全体的に、自由を尊重する同校の校風に魅力を感じる声が多く聞かれました。また、学校に対して熱い思いを持つ先生が多いという意見もあり、生徒だけでなく先生も美術を好きな気持ちを持って教育にあたっていることが伝わってきました。

加えて設備面の充実を挙げる声も多く、多くの生徒が良い環境での学びを実感しているようです。

女子美術大学付属高等学校・中学校へのお問い合わせ

問い合わせ先 女子美術大学付属高等学校・中学校
住所 東京都杉並区和田1-49-8
電話番号 03-5340-4541
公式URL http://www.joshibi.ac.jp/fuzoku/

※詳しくは公式ページでご確認ください